Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』  ★★☆

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)
夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)
麻耶 雄嵩

「和音は、和音だけでは『神』たり得ません。『神』はモノであるという認識は過去に多くなされてきましたが、全て間違っているのです。わたしたちが還元し“展開”する作業を伴うことが真に、“『神』なり”、なのです」


 『翼ある闇』で驚いていてはいけなかった。あれはまともだ。すっごくまともなの。もうどうにでもしてよ、と投げやりになりたくもなる麻耶の二冊目でした。不完全燃焼! 私には理解できません!
 あまりにもやもやして、サークルのラウンジに直行し先輩に意見を聞いたものの、やっぱりよくわからない。「全てを超越した存在を創ってしまえば作家は楽なんだよ」とか仰ってました。麻耶ファンらしく、色々話してくださったんだが……うむ。頭弱いね。
 ……いや、これは皆そうでしょ? 麻耶ってそういう作家なんでしょ? 破綻しっぷりを楽しめばいいんでしょ、もう。ミステリが好きな理由の一つにきちんとオチをつけてくれるから、というのがあるんだが、全てがそうだとは限りませんよね。私にも分かるように解説して。
 和音という女性を「核」として島で共同生活を送っていた男女。和音の死によりばらばらになった彼らは、二十年ぶりに集まることに。編集者の準社員・如月烏有とアシスタント・舞奈桐璃の二人は取材のため同行するが、島に着いた翌日の朝、テラスに首なし死体が放置されていた。真夏に関わらず降り積もった雪、そこにテラスへの足跡はなく……。
 烏有は重い過去を背負っていて、かなり内省的。妖怪シリーズの関口君を彷彿とさせる。ぐだぐだと後ろ向きで、嫌になることもあるけど、彼自身のことも文章としても桐璃が救ってくれてるみたい。「~にぃ」「~のぉ」なんて、若者っぽさを演出してるのかしら? 彼女は甘ったるいような喋り方をする。
 キュビズムについての薀蓄が割におもしろかった。ピカソらの絵みたいなやつね。そんな難しい理念があったとは知らなんだ。
 気になるのは括弧の多用。別に外しても支障ないのでは? 同じフレーズの繰り返しはもう慣れました。新本格を読んでいるとよく見る。
 本書のお陰で一つ気が付いた。私は生きている人間の怪我をしたり血を流したりといった描写がめちゃくちゃ嫌いなのだ! 電車で読んでて途中下車したくなった。死んでいれば何されてようといいんだけど、生きてるのは……特に今回の場合は……乙一『暗黒童話』を思い出しつつ。あれも気持ち悪くなったんだよなあ。こんなんでミステリ読んでいけるのかなあ。
 さて、もしかしたら今年の講演会は彼を招くかもしれないと聞き、ますます読まなくては、と思っている。著作10冊ほどだから楽よね。痛い目(笑)にあいつつ読まない気はおきないから不思議。回りで評判のいい『鴉』に辿り着くまでは死ねない。あ~駄目だな~。

 おもしろかったこと。

 ラストの大破局、メルカトル鮎とどめの一言。(裏表紙)


 うっそー!

 あけてびっくり玉手箱
 ポン(著者の言葉)


 ふ、ふざけてるわ(笑)!

 

 雪が割れて再び戻った、ってのはなしだな! 奇蹟といってしまえばそれまでかもしれないけど。通常の密室物としてはなしだよね。
 結局、編集長は和音だったの? 彼女が全て仕組んだ? でも和音は想像で創り上げた人物ではなかったのかしら。実在していて、テラスから落とされもせずに、本土に戻り編集長になったの? どうしてあんなに忠実に烏有の人生を追った映画が撮れたの? 超越しまくりだ。
 桐璃は双子で、戸籍が一つしかなく、片方が学校に行っている時もう片方は烏有に会っていた、という説を聞いたのだがどうでしょう。記憶を共有してるのはどうして。私は選ばれなかった方の、目を抉られた桐璃が哀れでならないのだけれど。あっちを抱きしめてキスしたじゃん、うゆーさん! 島で死んじゃったのかなー非道いー可哀相。
 尚美が和音を“展開”するために目を取っていったなんて。というか皆が桐璃を狙っていたわけだけど。彼らを独りずつ殺していく烏有。そう、犯人は主人公。でも倒叙ミステリではない……? 叙述……? そこらへんの言葉もいまいち使えこなせぬ。
 むむー。
 メルカトルがいつ出てくるかと心待ちにしてたのに、最後の二ページにしかいないし! 探偵のくせに事件を解決する場に行かないのね。残念。