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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

若竹七海『依頼人は死んだ』  ★★★★

依頼人は死んだ
依頼人は死んだ
若竹 七海
「どんな動機があったにしても、それを聞いたところで、不意の死、平和な日常をぶったぎる死を、納得できるわけなどない。死を納得できる理由なんか、どんなすご腕の探偵にも見つけられっこないもの」(都合のいい地獄)

 ……『プレゼント』より断然面白かった気がする。やばい、この毒がやみつきになりそう。本作では主人公が一巻して葉村晶で、小林警部はお役ごめんでした。粘り強く体力があり、白黒つけなくては気が済まず、理由が見つからないくらいなら自分の所為にしたほうがいい。友人達には物言いが率直すぎ皮肉屋でそっけないと思われてる、そんな晶のことが好きです(告白?)。
 濃紺の悪魔:長谷川探偵事務所に引き続き契約社員として勤めることにした晶は、一日三万円でちょっとした有名人・松島詩織の警護を引き受ける。
 詩人の死:友人・相場みのりと婚約していた詩人・西村孝が車をトンネルの壁に激突させ、自殺した。晶は理由を探って欲しいと頼まれる。
 たぶん、暑かったから:母の紹介でやってきた婦人は、娘・恵子が職場で上司を刺してしまった事件を調べてくれと泣きついてきた。
 鉄格子の女:大学生に画家・森川早順の書誌作りを依頼された晶。作業を進めるうち、森川の画風ががらりと変わったことが気になって……。
 アヴェ・マリア:一年前に教会で起きた殺人事件。事件そのものではなく、姿を消した聖母マリア像の行方を調べてほしいと、晶の契約探偵仲間・水谷は頼まれた。
 依頼人は死んだ:新進気鋭の書道家・幸田カエデのパーティーで知り合った佐藤まどかは、役所から卵巣ガンだという通知を受け取り、悩んでいた。晶は悪戯だと判断を下したのだが、彼女と再び会える時はこなかった……。
 女探偵の夏休み:居候をさせてもらっている友人のみのりが、いっさいの費用を負担するから、一緒に旅行に来てと言い出した。
 わたしの調査に手加減はない:みのりの母の紹介で、中山慧美という女性が、彼女の小学校からの友人・由良香織(二年前に自殺)の夢を見るので、何故自殺したのか知りたいと言う。
 都合のいい地獄:濃紺のBMWに乗っていて、濃紺のスーツを着た、首の付け根に青黒いあざのある男。晶に接触を図ってきた彼は、晶が知りたくてたまらないことと彼女の知人とを天秤にかけるような選択を迫る。
 9話もあると大変だわ。いやでも再読するから、良いことは良いんだけど。
 どの話も後味が悪く、人間の悪意と自分勝手ぶりを浮き彫りにしてくれる。精神的にまいる恐れが多いので、読後はミステリ以外の温かい本で口直し(今回は『優しい音楽』だった)が必要になるかも。でも、すごく面白かった。眠くならない! 最後の一文で謎が解けることが多いんだけど、特に「さあ、たぶん、暑かったからじゃねえか」ってのは最高(かつ最悪)だわ。
 『悪いうさぎ』へレッツゴー!