Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

浅田次郎『プリズンホテル』  ★★★★

プリズンホテル
プリズンホテル
浅田 次郎
 安息という言葉を口にしたとき、ぼくはそれがふしぎなくらいこのホテルにふさわしいことに気付いた。
 ヤクザが経営し、懲役がえりが訪れ、へんてこな従業員が不器用に世話をし、まがいものの調度品で飾り立てられたこのホテルが、どうしてこんな安息をもたらすのだろう。

「オヤジはいつも言ってます。生きてる人間も死んだ人間も、善人も悪人もそっくりもてなす極楽ホテルを作れって。だが、人はここを監獄ホテルだと抜かしやがる」

 今年は浅田次郎読むぞイヤーなので借りてみた。面白いと評判だし。彼の書くヤクザが大好きなものでして。『きんぴか』では腹を抱えて笑ったクチです。『蒼穹の昴』は文庫の四巻の途中で頓挫したまま。……よ、読みきるぞ。
 偏屈な小説家・木戸孝之助は、リゾートホテルのオーナーになった仲オジ(ヤクザ)に招待された。従業員は皆ヤクザ、仲居はフィリピン人、支配人もシェフも理由ありのめちゃくちゃなこのホテル。訪れたのは腹に一物抱えた老夫婦、心中一家、そしてもちろん任侠団体(ヤクザ)。幽霊が出てくるわ、何でもあり笑いあり涙ありの悪漢小説。
 泣きましたよ。何て単純なんだと思いつつも泣いた。ホロリとくる。仲オジ、あんたは漢の中の漢だよ! これを読むとヤクザにお近づきになりたくなる。筋の通った人間って見ていて気持ち良い。とっても爽快な小説だった。
 浅田次郎のすごいところは、あんなに性格の捻くれた人物を描きつつも、好感を持たせてしまうところだ。いわずもがな、木戸のことね。女を殴るような最低な奴だけど、憎めない。呆れながらも応援している自分がいる。すごいよ。
 お次は秋。明日にでも借りてこよう。飽きやすい私が春まで辿り着けるか、見ものだ。
 あ、ハードボイルドに何も入ってなかったから、本作を入れちゃった。別にハードボイルドなわけじゃないのはわかってます。まあいっか。渋い漢が出てくるし(お前の中のハードボイルドの定義はどうなってるんだ)。