Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』  ★★★☆

葉桜の季節に君を想うということ
葉桜の季節に君を想うということ
歌野 晶午

「どうして俺が特別であってはいけないんだ。誰が決めた。特別か特別じゃないかは生きてみないとわからないじゃないか。優秀な人間を見て、自分は適わないと思ったら、その時点でもう負けだ。自分の可能性を信じる人間だけが、その可能性を現実化できる資格を持つ」


 2004年このミス一位だったので、かなり気になっていた。何てったって『終戦のローレライ』を抜いたのだから。ローレライと比べるとかなりのとっつきやすさを誇り、文章もわかりやすく、楽しめた。しかしやっぱりローレライが一位でよかったのではないだろうか。それは私の欲目(主にフリッツへの)でしょうか。
 自称『何でもやってやろう屋』成瀬将虎は、魂が震えるような女にめぐりあいたい彼は、夏のある日、線路に飛び込んで自殺しようとしていた女性・麻宮さくらに出会う。その後、高校の後輩にあたるキヨシに頼まれて蓬莱倶楽部なる詐欺集団を調べることになってしまった。将虎が十九でヤクザに内偵に入ったこと、二年前PC教室の先生をしていて知り合った男のことなど、いくつかの話が平行して語られ、収斂していく。
 まあ正直かなりサプライズでした。この手の話はいくつか読んでいるので、一見普通そうに見えるけどきっと仕掛けがあるのだろう、と疑ってかかったにも関わらず、まんまと騙されていたという。……鶏の頭をしているらしい。一般常識的に読んだからさあ。サプライズ
 恋愛あり、活劇あり、とAmazonに紹介されているように、本作はミステリが主題ではない感じ。タイトルがかなり素敵だ。そして主人公の男前向きすぎ。「自分が特別ではないことを理解しているのは特別なことだ」「とにかく自分は特別でもなんでもない」みたいな小説が最近多いためか、眩しかった。末永くお幸せに。

 

  メフィスト作家の所為で鍛えられたはずなのになあ! でもこんな元気なおじいちゃんがいるなんて……想像力の欠如かしら。「~なのですか」というのは昨今の喋り言葉にしてはおかしいぞと思ってはいたが、本だからアリなのか、と勝手に納得していました。「いい人」とかね。そうか、お二人や綾乃、キヨシに愛子はそんなお年で……。びっくりだ。綾乃に対しても働かずに趣味に生きてて金持つのか? と疑問が湧いたんだけどさ。気づけよ自分。
 将虎、強すぎ(体力・性欲ともに)。
 巻末の補遺が面白かった。確かにね~。携帯の機種番号までヒントになっていたとは。ふむふむ。歌野さんは驚きを提供することには成功しているみたいですね。少なくとも私には。