Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

瀬尾まいこ『卵の緒』  ★★★★

卵の緒
卵の緒
瀬尾 まいこ
「母さんは、誰よりも育生が好き。それはそれはすごい勢いで、あなたを愛してるの。今までもこれからもずっと変わらずによ。ねえ。他に何がいる? それで十分でしょ?」(卵の緒)

「今は僕、まだばかだけど、これから賢くなっていろんなことわかるようになって、いいことと悪いことがもっとはっきりわかるようになって、いいことだけを取り入れられるようになって、自分の汚い部分を取り除く方法もわかるようになって、そしたらきれいになる。それじゃだめなの?」(7's blood)

 普通じゃない家族を書かせたら一番の瀬尾まいこ。いつのまにかお気に入り作家になってしまった。くう~、『図書館の神様』『幸福な食卓』に続き本作でもきゅんきゅんしてしまったことよ。もちろん前者は垣内君に、後者は直ちゃんにでしてよ。
 卵の緒:母さんと二人暮しの僕・育生はどうやら捨て子らしい。尋ねると軽くはぐらかされてしまう。けれど、母さんの好きな人であるお茶目な朝ちゃんや、登校拒否中のクラスメイト・池内君、じいちゃんばあちゃんたちと楽しくやっている。
 7's blood:七子は父の愛人の子供・七生と同居することに。それというのも七生の母親が刑務所に入ってしまったので、七子の母が引き取ったのだ。子供のくせに、他人との距離の取り方が絶妙にうまい七生に、七子は好感が持てなくて……。
 上記の通り、二つの話に登場する家族はどちらも血の繋がりがない(或いは薄い)。けれど、普通の家族以上の絆を持っている。『塗仏の宴』での家族論は強ち間違いでもないのねえ(考え方がネガティブだったが)。
 卵の緒における母さんと育生の関係が素敵過ぎた。毎日愛されてると実感しながら生きているんだなあ。そりゃ優しい男の子に育つのんじゃないかしら。過度のマザコンにならないといいね。朝ちゃんの、育生ママへの愛を告白する言葉も可愛すぎた。池内君はカリスマだった。私がにんじんケーキを食べさせてあげるわ!
 七生の設定に、オタク心をうまくくすぐられてしまった。こういう子に弱いのよ……! 結末は内容的には辛く哀しいんだけど、どこかすっきりとしていた。例によって涙がほろほろと零れる。七子頑張って!
 瀬尾まいこの家族は普通じゃないし、実際有り得ないと思う。家族の設定が、ではなく交流の仕方(?)が。現実感は薄いんだけど、気付いたら子供に感情移入しているんだよなあ。それだけ素敵な台詞をぽんぽん出してくる。
 男性陣がかっこいいのも、女性が描いてるからかしら。女性の理想とする男性。男性には描けないような、痒いところにも手が届く。ので、女性にお薦めしたい本。男性が読んだらどう思うのかも知りたいなあ。
 そういえば彼女、鯖が嫌いなのかな? 鯖エピソードが多い。