Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

佐藤多佳子『しゃべれども しゃべれども』  ★★☆

しゃべれどもしゃべれども
しゃべれどもしゃべれども
佐藤 多佳子
 自信って、一体何なんだろうな。
 自分の能力が評価される、自分の人柄が愛される、自分の立場が誇れる――そういうことだが、それより、何より、肝心なのは、自分で自分を“良し”と納得する事かもしれない。“良し”の度が過ぎると、ナルシシズムに陥り、“良し”が足りないとコンプレックスにさいなまれる。だが、そんなに適量に配合された人間がいるわけがなく、たいていはうぬぼれたり、いじけたり、ぎくしゃくとみっともなく日々を生きている。

 私が昔エッセイだと思い込んでいた一冊。何を勘違いしていたのだろうか。佐藤多佳子という名前は知っているなあと思ったら、『サマータイム』の著者。今度読んでみよう。
 主人公は噺家の、今昔亭三つ葉二十六歳。ひょんなことから落語を素人に教えることになってしまった。生徒は、吃音に悩まされる気弱な優男・綾丸良、口下手でつんけんした孤独な美女・十河五月、関西弁と生意気さでいじめられている小学生・村林優、元プロ野球選手だが解説下手の湯河原太一。三つ葉は彼らに落語を教えながら、自らも壁にぶつかる。
 文庫の解説に全て書かれてしまっているんだよなあ。主人公が噺家なので、終始軽妙に物語は進む。地の文が話し言葉だからね。いきいきとした人物描写で、大した事件もないのに読み始めるととまらない。一日で読みきった(久しぶりの充実感!)。
 問題ありの生徒たちとの心を通わせていき、最後はすっきりと成就、なんて割と典型的な元気を出そうストーリー(何それ)。完全な解決には至らないんだけど、ほんの少し上向きになって。これからも頑張って行きましょう、みたいな。
 “読み終えたらあなたもいい人になってる率100%”とあるが、これはちと大袈裟。いい話ではあるし、私も三つ葉と泣くべきだったのかもしれないし、ウェブ上では評判もかなりのもの。
 しかし、私はいい話だね、で終わっちゃう感じ。どうして? いい人になれてないような――主要登場人物が好きになりきれないからかしら。三つ葉と生徒たちが、いい人になりきれてないんだよね。いえ、勿論人間なんだから全面的にいい人なんてのはいないのだろうし、そこが狙いかもしれない。いい人を求めて読書してるわけじゃない。
 完結にすると、私が惚れるに値する人物がいませんでした、ってことか。いい話ではあるんだよ。人生なんて試行錯誤しながら頑張るしかなく、三つ葉はそれを体現してくれていて、……私のツボにはまらなかっただけ。