Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

江國香織他『いじめの時間』  ★★☆

いじめの時間
いじめの時間
江國 香織, 角田 光代, 稲葉 真弓, 野中 柊, 湯本 香樹実, 大岡 玲, 柳 美里

 どんなことでもいい、彼女たちが私より劣っている何かを見つけ出して、バカだの下品だの低俗だの、思いあたる言葉をつらねても、どこかへ行けるわけではないのだ。私が今いるのはここで、ここ以外になくて、いるべきところもいるはずの場所も全部ここなのだ。(空のクロール)

 もし、すべてが暴き出されて、あいつがもう一度、いじめられっ子としてみんなの前に晒されることになったら――あいつはきっと生きちゃいられない。あいつがなんとか守り抜こうとした、あいつの誇りはずたずたにされて、二度と繋ぎあわすことなんかできなくなってしまうんだ。(リターン・マッチ)

 いやいやいや……テーマがテーマなだけに、良い気持ちで読めるものではなかった。いじめ、ね。小学校中学校ではよく見かけたけど、幸い(と言うべきか?)私の周りでは暴力まで発展していなかった。そこまで本格的ではなかった。本人にとっては違うだろうが。先日まで通っていた高校では全くなかったなあ。うちの学校ほど平和な場所もないと思う。
 緑の猫(江國香織):中学入学から、あたしはいつだってエミと一緒だった。なのにそのエミが、どんどんおかしくなっていく。
 亀をいじめる(大岡玲):冬眠中の亀に熱湯をかけていじめる。抗いがたい衝動に駆られるのだ。
 空のクロール(角田光代):泳げないのに水泳部に入部した。三年に上がってから同じクラスになった梶原さんに「ババア」と呼ばれたのがきっかけで、私はいじめられることに。
 ドロップ!(野中柊):久しぶりに学校に行ったら、みちるの机にはハルカちゃんという編入生が座っていた。何故か執拗にドロップをねだるクラスメイトの手。
 リターン・マッチ(湯本香樹実):いじめの標的だったあいつが、皆にケットウジョウを出しているという噂が広まってきた。ついに、俺のところにもそれが届いた。
 潮合い(柳美里):転校してきた里奈は、クラスの中心の麻由美が話しかけても返事をしない。それが気に食わない麻由美は……。
 かかしの旅(稲葉真弓):足が悪い卓郎は、学校に通ううちに言葉がうまく出てこなくなってしまった。いじめられた彼は、生きなくてはと思い家を出て、何人かへの手紙をノートに綴る。
 江國香織のは、『いつか記憶からこぼれおちるとしても』に入っていたから読んだことがあった。「こんなところまできてもらっちゃってごめん。ちゃんとできなくてごめん」というエミの台詞にとても哀しくなってしまった。
 次の「亀をいじめる」、延々と教師である主人公の内面を吐露していて、気分が悪い。動物虐待に異常なほど反応する私には、嫌悪感しか抱けなかった。話としてまとまりがあるとも思えないし。「ドロップ!」は現実なのか幻想なのかわけがわからず(私の感受性が足りないのか?)、どっかで訴えられて名前だけ知っていた柳美里の「潮合い」は視点がころころ変わりすぎて読んでいて疲れてしまった。この三つが私の中ではハズレかな。
 「空のクロール」は角田光代、って感じだった。引き込まれる。女の子のえぐさが柳美里のと同じくらい伺えた。女って……。「かかしの旅」、読みやすかった。可もなく不可もなく。
 そして一番リーダビリティがあったのが「リターン・マッチ」。これはすごい。この話のためにこの本があるんじゃないかしら。本当に「俺」の話を聞いているように読めた。最後の描写で判断する限り、「あいつ」はもう……。やばいな!(色々と) 『夏の庭』借りてこよう!