Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

長野まゆみ『若葉のころ』  ★★★

若葉のころ
若葉のころ
長野 まゆみ

「凛従兄さんが、どうして氷川さんぢゃなきゃダメなのか、ほんとうは解ってる。……似たものなんて要らないんだ。俺がどんなに従兄さんを真似たって、関心を惹くはずがない。そんなのは窮屈で退屈。自分の尺度に合わせてほしいなんて、従兄さんはひとつも考えない。……だけどそれ、因果な生き方だよね。報われない場合だってある。」
「……たぶん、」

 ついにシリーズ完結。最後だから凛一と氷川との会話を抜き出したかったけれど、それはネタバレにしかならないのでやめた。憎めない正午でシメ。長野まゆみの登場人物の心理についての台詞は、文章が綺麗なせいか小難しい感じがするけれど、どうしても綺麗なのでうっとりしてしまう。このシリーズは男同士のキスが度々出てくるので、拒否反応を起こさない人にだったらすごくお薦め。細くて鋭い棘に触れたような雰囲気(?)に酔える。
 前作から二年後、有沢が突然アメリカから帰国する。彼の訪れとともに前の気質を取り戻しつつある正午。子供ができて、すっかりパパになった千尋。突き放したり優しくしたりする千迅。よからぬ流言を耳に入れられ、氷川とはしばらく逢わずにいようと告げにいった凛一は、氷川と女友達の情事を目撃する。
 進展したのかしてないのか、はきわどいところ。そこまで二人の仲が進んだようには思えない。今までだって幾度か諍いは起こしているし、仲直りもしているから。けれど、二人が結論を出したのでやっぱり進展なんだろう。
 凛一、千迅、そして氷川の過去が描かれていた。過去のトラウマみたいなものがあると俄然おいしい(何それ)。
 このシリーズが始まったのが凛一が中学三年あたりだから、現在として五年ほど、加えて彼らの過去が入るので作品は適度な時の厚みがあった。1977年あたりの話だが、恋愛事情は大して変わらないというか、古いとは感じなかったな。言葉遣いは古めかしいけど、内容的には通用する。
 『若葉のころ』という題名どおり、イメージカラーは緑。これだけではなく、シリーズ通して緑。凛一や正午が華道やってて、美しい植物の描写が沢山出てくるからかしら。爽やかで切なげな緑(どんなん?)。
 
ネタバレ
 凛一の魔性っぷりには驚きだよ。この子登場人物全員とキスしてるんじゃないかってくらいだよ。