Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

貴志祐介『硝子のハンマー』  ★★★☆

硝子のハンマー
硝子のハンマー
貴志 祐介

「ちくしょう、まさか、こんなことを本気でやるとは。ふざけやがって……」
 自分の声が、荒々しく昂ぶっていくのを感じた。
「こいつは、デッド・コンボだ!」
「榎本さん? いったい、何? どうしたの?」

 人の命など、一瞬の炎の閃きに過ぎない。
 誰も、この石ころより長くは生きられないのだ。
 短い人生の中で、精いっぱい光輝くためには、時として、もっとも暗い場所を通過しなければならないこともある。


 2005このミス6位。これで今年のベスト20位までの作品23冊中7冊読了ということになる。……少なっ! 『イニシエーション・ラブ』『暗黒館の殺人』は読むつもりだけど、他はシリーズだったりで読まずに終わるかもしれない。作者の実に四年ぶりの新作らしい。
 あらすじは帯から。日曜の昼下がり、株式上場を目前に、出社を余儀なくされた介護会社の役員たち。エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、有人のフロア。厳重なセキュリティ網を破り、自室で社長は撲殺された。凶器は。殺害方法は。すべてが不明のまま、逮捕されたのは続き扉の向こうで仮眠をとっていた専務・久永だった。青砥潤子は弁護を担当することになった久永の無実を信じ、密室の謎を解くべく防犯コンサルタント・榎本径の許を訪れるが――。
 物語は二部に分かれている。ちなみに相変わらず読点が多くて、一旦それを意識してしまうと読みにくい。頭から追い出して無心になることが大事。
 第一部は推理編。弁護士・青砥純子と防犯ショップ店長・榎本径の二人が、久永以外に密室に入れた者がいると証明するため、あらゆる視点から推理を展開する。わかった!→確かめよう!→無理だった!→ではこれならどうだ! とばかりに可能性を虱潰しに消していく。大抵の探偵役は一回かそこら躓いたら答えを導き出して解決、となるがこれは違う。よくぞここまで頑張った、と褒めてあげたい。純子と径の微妙な二人の行く末も気になりどころ。
 第二部は犯人編。生い立ちから犯行に至るまでの経緯を描き出す。『青の炎』もそうだったが、いやどんな人でもそうなのかもしれないが、犯人が悪くなりきれない(径はきっぱり悪いと断言しちゃったけど)、憎めないところがニクい。自分だったらどうするかなあ。生きるためには何でもしてしまうだろう。その前にそんなトリック思いつかないけど。
 二部も面白かったけど、一部の終わり方がこれからいいところなのに! って感じだから、ちょっと拍子抜け。じゃあどうすれば、となると分からないが、何だか中途半端。焦らす効果? うーむ。
 全体的には大分楽しめた。今は重い本が読みたくない気分だったけど、普通に読めたし。純子と径の会話が好きだからかもね。この本、最初何かの続編だと思った。ハゲコウとの関係、本職、過去の事件……色々考え合わせると、榎本径シリーズがあってもおかしくない、寧ろこれからできるのか?

 

 犯人が殺害に必要な道具を調達・作成している描写が丁寧だったけど、半分くらいしか理解してないと思う。難しいんだもの。方法はちゃんとわかったけど、細かい部分……なんとかブロックとか、曖昧にしか分からん。こんな読者じゃ、作者が調べた努力が無駄だな! ごめんなさい。
 ビリヤードを例にして説明してくれたのはよかった。ボーリング球の衝撃を硝子が伝える、というのをイメージできたから。あれでしょ、六つくらい玉の連なったオブジェで、両端の二つがかちかち動くやつ(わかりにくい!)。家庭教師のトライのCMで使ってた、「アザー・他人です」とかいうやつのイメージ(頭悪いなほんとに)。
 章の境遇を考慮すれば彼が極刑にならなければいいと思うけれど、何の恨みもない人を殺害するのはやはり、おかしい。恨みがあればいいってものじゃないとはいえ、ないなら言うまでもない。とっても可哀相なんだが。

「事故だとは、まったく、とんだお笑いでした」
「え? どういうこと?」
「これは、まぎれもない、計画殺人です」
 純子が息を呑む気配が聞こえた。
「それも、およそ、信じられないような方法を使った」


 上の部分がすごく好き。ぞくぞくした。でもネタバレになるからこちらで抜き出しました。一分後にかかってきた電話で、二人は食事に行ったと信じている。
 本職が泥棒の探偵役といえば、思い出すのは伊坂幸太郎作品の黒澤さん。彼を知っていたから、大して設定に新しさは感じなかったなあ。あと『ステップファザー・ステップ』の主人公もじゃないの。懐かしや。