川上弘美他『恋愛小説』 ★★★
恋愛小説
川上 弘美, 篠田 節子, よしもとばなな 他
だって、全部なんてかけて愛したら、相手に悪いもの。そんな重くて大きな思いを、恋愛をしているというだけの理由で相手に負わせるなんて、身勝手すぎるもの。(天頂より少し下って)
「いや、がんばるわけじゃない。ほうっておこうということなんだ。だって、誰が決めたの? 離れるときはきちんとしなくちゃいけないって。それは別れたい人たちのあいだの話しだろう? 俺たちドラマの見すぎか何かでおかしくなっているんだよ。」(アーティーチョーク)
全てお酒が絡んでいるのね、と思っていたらそれもそのはず、これはサントリーのウイスキーにくっついていたミニ本を一冊にまとめたもの。知らなかったそんな企画! 酒弱いけど本は欲しかったなあ、特に川上弘美とよしもとばななの……。
天頂より少し下って(川上弘美):真琴はバツイチで息子の真幸と一緒に住んでいる。彼女が、付き合って三年になる彼氏、涼と出会ったのは靴屋だった。
夏の吐息(小池真理子):昌之がいなくなってから六年。妙子は彼の母と暮らしながら、昌之を思う。
夜のジンファンデル(篠田節子):絵美は友達の百合子と夫婦ぐるみの付き合いをしている。かつてアメリカに旅して困った時、絵美は百合子の夫・隆に助けを求めたことがあった。
アンバランス:(乃南アサ)瞳子は直也と長く同棲している。まだ結婚もしていないのに倦怠期みたいだ。潮時かしら、と瞳子がため息をついたら、上から怪しげな音が。
アーティーチョーク(よしもとばなな):生前、お酒を大切に飲んだおじいちゃんを持つ“わたし”の付き合っていた恋人が、NYに転勤になってしまった。二人でどうするか話し合ってもいつだって尻すぼみに終わってしまう。
どの話も、お酒をおいしそうに飲める程度の年齢の女性が主人公。小池真理子と篠田節子は未読だけど、他のお三方は知ってる。
中でも、川上弘美の話が一番好き。この人の恋愛小説、言葉からスピードからもう全部好き。『センセイの鞄』『ゆっくりさよならをとなえる』あたりは読んでおきたい。
乃南アサは、怖い要素を入れていて、恋愛だけではないところが彼女らしいと思った。女性の内面を吐露することが多いらしい(どっかの書評より)けど、確かにこちらもばっちりだわ。
『デッドエンドの思い出』が私のヒットだったよしもとばなな。どことなく、というか本作の五つで比べると、川上弘美と近い感じがする。でも違う。全然違うんだけど、遠くはない気がする。あ~微妙。
どれも温かみがあっていい雰囲気だから、読んで損はないと思う。装丁かわいいし、軽くて持ち運び楽だし、素敵です。素敵な一冊。