Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

加納朋子『コッペリア』  ★★☆

コッペリア
コッペリア
加納 朋子

 人形はなぜ埋められる? なぜ簡単に崩れ壊れてしまう? なぜ捨てられるのだ?

 人はなぜ、人形を作るのだろう?
 笑っている人形を。泣いている人形を。怒っている人形を。苦しんでいる人形を。
 様々な感情を人形に背負わせて。


 『ささら さや』は好きじゃなかったけれど、とても有名な作家なのでもう一冊、と選んだのがかつくらで紹介されていた本書。ミステリのカテゴリでよかったかしら? 読む人によっては恋愛にもなるでしょう。
 聖は並外れた美貌の持ち主で、小さな劇団の看板女優。“あしながおじさん”を見つけて芝居に打ち込んでいる。幼少から人形の魅力に囚われている了は、近所の人形師・如月まゆらの失敗作を手に入れ、修復に取り掛かる。その世界では有名な彼女の個展で二人は出会った。飾られていた人形のうちの一体、了が拾った失敗作の<本物>は、聖そのものだった。
 がらっと作風が違った。心温まるミステリ書きとして知られる加納朋子だが、『コッペリア』では薄気味悪さが先に立つ。聖と了が出会うところはぞくっとした。二つの世界が交わる点はいつだってそういうものだが。一章では二人の、二章では聖のパトロン・創也の視点も加わって、割と頻繁にそれが切り替わる。
 人を模った人形の持つ、夢中にさせる何か。人形で遊んだ経験がない子供なんてほとんどいないだろう。私もジェニーちゃんを喋らせて楽しんだ覚えがある。そして恐ろしさ。了は「なぜ捨てられる?」と言っているが、人形を捨てるには勇気が必要だ。呪われそう、とか考えてしまうから。可愛いだけではないのだ。
 「ごっこ遊び」をしている彼らも人形みたいなものかしら。作中のまゆらドールを実際に見てみたいな。そこまで迫力のある、人の人生までをも狂わせる人形を見たことはないから。……いや、どんな人形でも生み出され廃棄されるまでの過程で、人に大きな影響を与えているのかもしれないけど。

 

 二章から時間が食い違っていたとはね! 全然気付かなかった。てっきり小野寺創也だとばかり。聖がすんなり受け入れるとは思わなかったし。気付いてからもう一度読み返すと、納得しちゃうんだけど。
 ラストで二人がくっつきそうな余韻。甘いな。この甘さがいいのかな。