Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

福井晴敏『6ステイン』  ★★★

6ステイン
6ステイン
福井 晴敏

 人を騙し、裏切り、時には殺しもする行為を前に、わたしは言われたことをやっただけですって言い訳が通るわけはない。それは実際に手を汚したことがある者なら、誰でも知っている。(中略)安眠を忘れ、身を切るような呵責を抱えて、それでも地面に足をつけて踏んばり続ける大多数のAP、SAP、COたち。それが分業体制では償却できない、個人に課せられた責任の通し方であるというなら、おれたちはどこに希望を見出し、なにを糧にして生きてゆけばいいんだ?


 福井さんの著作で刊行されているものは全て読んでいる。今はローズダストを連載中だったな、確か。今年、ローレライ・イージスは映画化され、戦国自衛隊1549の脚本も福井さんが手がけている。福井イヤーだ。北朝鮮についてなどの過激な部分はどうするのだろう……カットかな。
 これは、直木賞の候補にも上がった、福井晴敏初短編集。「存在を秘匿された組織、市ヶ谷……防衛庁情報局で過酷な任務に身を投じる工作員の男たち、女たち。20世紀にいくつかの「染み」を残した彼らへの、6編の鎮魂歌。」らしい。実は読み終えたのは去年の大晦日。大方忘れていて、読み直すのが大変だった。
 ローレライを読んだ時には、文章に柔らかさを感じたのだが、本作では漢字が多いというか、わざと難解にしているような気がした。漢字は好きだが……多分ローレライも柔らかくなんてなかったのだろう、私の勘違いで。
 いまできる最善のこと:中里裕司はヤメイチ。東京へ向かう電車の中で、かつての同業者と出会う。中里に弟を始末された相手は、中里を殺そうと襲ってきた。偶然同乗していた小学生をかばいながら、中里はいまできる最善のことをしようと奮闘する。
 畳算:堤洋隆は、ソビエトの内通者であった牧野良輔の「スーツケース」の在り処を書いた手紙に従い、牧野が逃走時おいていった妻・久江のもとに赴く。
 サクラ:同僚に代役を頼まれた高藤征一のパートナーとして現れたのは、ガングロメイクのサクラ。サブジェクトの監視だけでなく、警護も今回の任務であるらしい。席を立ったサクラが発した「邪魔だけはしないでよね」という一言は――。
 媽媽:妻であり母でもある坂本由美子に、一本の電話が入る。『九美神(ミューズ)』と呼ばれる海賊シンジケートに密輸計画を指示した、ユイ・ヨンルウの身柄が確保されたというのだ。
 断ち切る:すっかり足を洗ったが、椛山為一は昔断ち切り師として名をとどろかせていた。その時彼を追いかけてきた刑事・韮沢が、二十数年後の現在、椛山にある話を持ちかける。ある女性の鞄から、電子手帳を盗んでほしいというのだ。
 920を待ちながら:タクシー運転手兼AP・須賀義郎の車に乗り込んできた、“予約”の客は木村と名乗った。どうも、二人が警護するサブジェクトの事案には、920が関与しているようだ。須賀は過去、920に殺されかけたことがあった。
 今まで似たような作品ばかりだったけれど、本作では設定に変化が見られる。女の主人公が出てきたというのが一番であろう。今までもパウラやジョンヒらの女性は活躍していたが、由美子のようにメインではなかった。このままずっと「やる気を見失った中年男性(最後には熱血化)」プラス「他人に心を閉ざす青年(心は開かれる)」のパターンだったらどうしようかと思っていた。そんなわけで媽媽が好き。ユイもよかったし。920は好きとかそういうレベルじゃない。イージスを読み終えた方は、是非読んで頂きたい。叫ぶ。
 どの短編もそれなりに楽しめ、わくわくしたものの、やはり福井さんは長編の方がいいという意見を持っているのは、私だけではないだろう。イージスとローレライはやばいから……!ローズダストに期待している。
 装丁は、イージスや12と比べて手に取りやすくなったと思う(最初包帯だとわからなかった)。言うまでもなく、ローレライがダントツで素敵だけど。
 並外れて面白く、クサイながらもぼろぼろ泣かせられてしまうストーリーをつくる福井さんがこれからも活躍してくれることを切に祈っている。作品中の美少年らも大好きです……!フリッツとかフリッツとか行とか。

 

 行ー!!!
 木村だなんて、あんただったらあつかましくないよ! もっと上だよ! まさかここで行の過去話が出てくるとは。福井さん読者サービスありがとう。嬉しい!
 こうなるとイージス再読したくなるんだよな……ううん、商売上手だわ。