Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

横山秀夫『影踏み』  ★★☆

影踏み
影踏み


「双子ってそんなに大切?」
「……別に大切なわけじゃない」
「うそ」
「本当だ」
「だったら、どんな存在?」
「当たり前すぎる存在だ」

≪修兄ィと一緒にいたかったからさ。話したら、もう一緒にいられなくなるもん≫
<なぜ話したら一緒にいられなくなる>
≪楽しかったね≫
 真壁は宙を睨みつけた。
<なぜ話したら一緒にいられなくなるんだ>
≪俺、修兄ィも久子も大好きだから≫


 いやあびっくり。警察物で有名な、横山秀夫がこんな設定をつくるなんて。ファンタジー(明らかに違う)……! ファンは皆一様に驚いているようだ。このミスに、彼の本は男くさくて女性が敬遠しそう、と評されていたが実際どうなのだろうか。読者層が知りたい。横山秀夫に挑戦したい人には『第三の時効』をお薦めする。読了後には私と熱く語り合ってほしい。特に矢代くんについて。
 話を元にもどして、あらすじをば。主人公は真壁修一(34)。彼は深夜民家に現金を盗みに入る「ノビ」のプロで、“ノビカベ”と綽名されている。修一の内耳には、空き巣を重ねた挙句、十五年前、悲嘆した母が道連れに無理心中した弟・啓二の魂がいて、声が聞こえる。彼らが共通で恋していた女性が久子で、彼女が修一を選んだため啓二はグレたようだ。三つの魂が絡み合う連作短編集。
 消息:修一は下手を踏んで逮捕され、二年間刑務所に入っていた。出所した彼は自分が捕まったヤマを調べ始める。あの日忍び込んだ家の女は夫を焼き殺そうとしていた――。
 刻印:修一と小中学校の同級生だった吉川聡介という刑事が変死体で発見された。吉川の死には、二年前忍び込んだ稲村家の女房・葉子が関係していた。
 抱擁:久子の幼なじみ・三沢玲子が修一にコンタクトを取ってきた。久子の勤める保育園で現金の盗難があり、彼女が疑われているらしいのだ。
 業火:半月前から盗人狩りが行われているという。修一も襲われた。襲ったのは博慈会というヤクザ。彼らは重原昌男の家に盗みに入った者を探していた。
 使徒:出所前、刑務所内で修一は「恵美っていう名の可哀相な女の子のサンタクロースをやってくれ」と頼まれていた。
 遺言:盗人狩りで重体だった同業者の黛が死んだ。彼は運び込まれた時に修一の名を呼んだらしい。黛の遺したメッセージをもとに、修一は父親を探す。
 行方:久子が男につけられている。ストーカーまがいなことをしているのは、母の紹介で知り合った久能次郎の双子の兄、新一郎のようだ。
 普通に面白かった。泥棒が主人公といえば、宮部みゆきステップファザー・ステップ』を思い出す。本作も双子が出てくる部分だけ共通しているなあ。しかし、何故評価が低めかというと、ラストがあまり気に食わなかったから。もうちょっとどうにかなってほしかった。中途半端にぷっつりと切れた感じがした。全てを収斂させて終わらせる必要はないにしろ、解決してない要素はかなり大切だと思うのだ。
 啓二は十九で死去しただけあり、口調が可愛らしい。好印象だったので、子供っぽすぎやしないか? というのは置いておく。限りなくどうでもいいが、彼が「修兄ィ」と呼ぶ振り仮名は「にィ」なのか「あにィ」なのかという点がひっかかった。……ヤクザじゃないんだから、「にィ」だとは思うけれど。

 

 啓二が成仏したのはいいが、久子とどうなるのか、そして馬淵との取り引きは……? いくら啓二がいなくなって修一がふっきれても、ウタったらまた刑務所に逆戻り。後先考えないんだから(偉そう)。