Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

上遠野浩平『禁涙境事件』 ★★

禁涙境事件  ”some tragedies of no-tear land”
禁涙境事件 ”some tragedies of no-tear land”
上遠野 浩平

“そうですね――世界の、いや矛盾の再発見ですかね”

 仮面を間に置かない、その剥き出しの視線がぎらぎらと、凍りつくような冷気を放っていた。
 何かが欠落していた。
 人は誰しも、他人と接するときには何らかの形で装う。取り繕い、見栄えを良くし、相手の印象を考慮に入れて格好をつけるのが、一人では生きられない存在の当然の修正として染みついている。
 だが――それがなかった。


 戦地調停士EDが(主な)探偵役の、ファンタジーとミステリーの融合、~事件シリーズ第四段。約二年ぶり。このシリーズが始まったのは二千年。設定を忘れ気味で困りながら読んだ。殺竜、紫骸城、海賊島と続いて本作は禁涙境。一番影が薄かったのは海賊島かなあ、事件の内容さっぱり覚えてない。殺竜はリスカッセ、紫骸城はミラル・キラル、じゃあ海賊島は……? となると答えられない。これはEDと風の騎士の過去エピソードが少々入っているので、記憶に残るかなあ……?
 舞台は魔法が使える世界。といっても古めかしいとかよりも、SFチックだという印象を受ける(SF作品など何一つ知らない私の意見だが)。そんな世界で起こる殺人事件を解いていくのは、戦地調停士であるEDことエドワード・シーズワークス・マークウィッスル。彼は常に仮面を被っている。幼なじみの風の騎士ことヒースロゥ・クリストフもよく登場する。
 禁涙境とは、何らかの原因で(十字架(アンカー)だとされている)魔法の効果が四分の一になってしまう地。そこで過去に起きた、エルウィンド・リーチと娼婦殺害事件、残酷号が跡形もなく禁涙境を破壊してしまった事件などに遡りながら、最後には犯人にたどり着く(時効だけど)。
 トリックはあまり練られていないご様子。納得できない部分が残る。まあ、ミステリとして読もうとは思っていないが。
 金子一馬のイラストが不思議さを更に添加。どうも、キモ格好いいという言葉がしっくりくるような気が……残酷号はとりわけすごい。キモイ(褒めている)。ライトノベルにつきものの挿絵は、プラス面として、世界がイメージしやすい点が挙げられる。映像化しにくいことが多いから。西尾維新なんかは竹さんの挿絵があることを前提にしているし。マイナス面は言うまでもなく恥ずかしさ。私はオタクですと公言しているようなもの。十二国記シリーズは文庫になったから読者の層が厚くなったろうな……。
 上遠野浩平の本は全て読了済み! と自慢したかったのだが、しずるさんシリーズの二作目が出ていたなんて知らなかった。表紙がロリっぽいから借りるのに躊躇ってしまうが、仕方ない、リクエストしてやろうじゃないか。
 有名なブギーポップ、虚、しずるさん、事件とシリーズを手がけながら幾つか独立した物語も書いている彼。いずれも似た空気を漂わせている。そして私は彼の文章が大好きだ。読んでいてまとわりついてこないから。後書きはやたらとくどい(ごめんなさい)。

 

 イーヴ・ハーヴがエルウィンドを殺した状況を考えると、無理がありすぎると言わざるを得ない。誰も気付かないなんてありえないだろ。その上彼が精神的に脆すぎた。『ハサミ男』の犯人くらい堂々としていればいいのに。
 EDはオピオンの子供たちだったのか。と言いつつオピオンの大変さが今ひとつ理解できなかった。カップリングはED×ヒースロゥ×ED(リバ)で。何だかおいしそうな過去をお持ちのようで(言う事はそれだけですか)。