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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

殊能将之『ハサミ男』 ★★★☆

ハサミ男
ハサミ男
殊能 将之

「きみは今回の事件がハサミ男の犯行ではないと知っている、この世でたったふたりの人間のうちのひとりなんだよ。きみが探さなければ、誰が探すのかね」
「たったふたりの人間? もうひとりは誰だ」
「真犯人さ」


 彼は第13回メフィスト賞を受賞してデビューした。最近西尾維新を読んだのもあり、メフィストだからもっとブッ飛んだ作品だと思っていたが、そんなことはなく。特に後半は惹き付けられ、ページを捲る手が止まらなかった。電車の中で読んでたから中断せざるを得なかったのだが。
 文庫版だったため、解説にわかりやすいあらすじがついていた。語り手の「わたし」は殺人犯。二人の少女を殺害後ハサミで陵辱するという、以上かつ残虐な犯行に及ぶため、マスコミからは「ハサミ男」という名を頂戴している。次回の被害者を決め、尾行していたその矢先、獲物である少女・樽宮由紀子が別の何者かに殺害されてしまった。しかも、その犯行の手口は「ハサミ男」そっくりであった。わたしは由紀子の周囲を調べ始める。
 してやられたというか……こっちかな? あれ、あっちだったのか……やっぱりこっちなのか! みたいな(わけわかりません)。そこら辺がとても上手く作ってある。伏線とか。細かに視点が変わるなあ、と思っていたら……。違和感を持ちつつもすっかり騙されていて、「ハサミ男」に感情移入までしていた。いや、びっくり。
 わたしは毎週土曜日に自殺を繰り返し、その度に引用癖のある「医師」と対話している。この「医師」が頭脳明晰で皮肉っぽく、哲学めいた言動もあり、おもしろい。彼の持論によると、何故人を殺してはいけないのか? という問いへの答えは「ただの不快感」だそうだ。 
 犯人を追いかける警察の方々もかわいくて(その表現は如何なものか)好きだ。磯部くんは思わず応援したくなってしまう。馬鹿だけど。シャーロック・ホームズくらいは誰でも知っていて欲しいところである、というのは同感。

 


 題名からして騙されている。「ハサミ男」だなんて。性的暴行の跡がないのは当たり前だ、だって彼は彼女なんだから。てっきり日高が犯人だと思っていたのに……うまく切り替えているなあ。女性が自分をデブと思い勝ちな性質をよく利用している。彼女の場合はそんなありきたりなもので括れはしないのかもしれないが。
 途中で堀之内が怪しそうとの疑念を抱いたら、案の定だった。まあ直前までわからなかったんだけれど。しかもきちんと理解していたわけではなく、直感。ミステリ好きなんだから、たまには自分で事件を解決したいものである。
 愛すべき磯辺の勘違いで知夏はのうのうと入院しているけれど、あの終わり方はいいなあ。これで再び「ハサミ男」が出没したら警察はどうするんだろう……とわくわくするから。