Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

舞城王太郎『煙か土か食い物』  ★★★★☆

 云年ぶりに読み直したら思っていたより文章が端正で驚いた、初読の際は随分驚いたものだったけどなあ。内容はやっぱり舞城の中で一番好きですね。このシリーズもっと書いてもらいたかった。

煙か土か食い物 (講談社文庫)

煙か土か食い物 (講談社文庫)

 

腕利きの救命外科医・奈津川四郎に凶報が届く。連続主婦殴打生き埋め事件の被害者におふくろが?ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー!故郷に戻った四郎を待つ血と暴力に彩られた凄絶なドラマ。破格の物語世界とスピード感あふれる文体で著者が衝撃デビューを飾った第19回メフィスト賞受賞作。(Amazon

 つっても初期の数冊しか読んでないんだけどね舞城。この人にとっての家族愛とはなんぞや、みたいなのが見えるよね、『好き好き大好き寵愛してる』あたりもそんな感じじゃなかった? デビュー作に全てが詰まっているというのは読者としては本当だと思うよ。

 二郎のエピソードは何度読んでも面白いですね。単行本化されていない短編をどこかに収録してくれ。

トム・ロブ・スミス『チャイルド44』  ★★★★☆

 面白かったとは言えない読書でしたがリーダビリティは多分にありました。下巻は一度読み始めると止まらないので時間のあるときに読んだ方がよいです。

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

 
チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

 

スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた…。ソ連に実在した大量殺人犯に着想を得て、世界を震撼させた超新星の鮮烈なデビュー作。(Amazon

 ここから多少ネタバレを含むので、何も予備知識要らなければ戻っていただいて。

 スターリン体制下のソ連、ということでまさに1984年の世界で、日本もこのまま右翼化が進めばこうなりかねないな、既に犯罪を外国人に押し付けたがる風潮がものすごくあるしな、とゾッとしながら読みました。このものすごい明日は我が身感。わたしは今の政権の進む先が先進国としてまっとうだとは到底思えないので。「個人的なことは政治的なこと」、アメリカのフェミニズム運動のスローガンですけど、あらゆるものは政治から逃れられないんだと感じます。例外はない。

 本筋の大量殺人とは別で、理不尽に人が死にまくるため読んでいて非常につらいのですが、事前に作者を調べ、レオを主人公とした三部作があることを知っていたからガンガン読み進めることができました。知らなかったらなかなか厳しかった。特に下巻には主人公周りにポジティブないいシーンが出てくるので、これで結末がアレだったら結構立ち直れないな……と。三部作だよ! というのを糧に行けばいいと思う。

 プロットそのものは相当えげつないけどね。よくぞここまで胸糞悪い落とし方をしたよね。上巻読んでから少し間があいたため下巻で気づくのかなり遅れたけどね。ストーリーとしてきれいにまとまっている分フィクション感が強まり、一歩引いて眺められるというのはある。面白かったです。

 一時期トム・ハーディ出演作を漁っていたにも関わらず、2015年に彼主演で映画が作られていたことすら知りませんでした。しかもネステロフがゲイリー・オールドマン。英国俳優的にめっちゃ豪華ではないか。しかしソ連舞台なのに全編英語でやったのか。それは言語の雰囲気的にどうなのか。まあロシアでは発禁だそうですので彼の地の協力は得られないわけだけれど。ちょっと見てみたい。

恩田陸『ネバーランド』  ★★★★

 名古屋は栄のブックオフで100円棚に並んでいたので懐かしくなってつい。 これほんと女性の夢想する理想の少年達だよ。十年以上ぶりに読み返したので新鮮な気持ちで読めた。

ネバーランド (集英社文庫)

ネバーランド (集英社文庫)

 

舞台は、伝統ある男子校の寮「松籟館」。冬休みを迎え多くが帰省していく中、事情を抱えた4人の少年が居残りを決めた。ひとけのない古い寮で、4人だけの自由で孤独な休暇がはじまる。そしてイブの晩の「告白」ゲームをきっかけに起きる事件。日を追うごとに深まる「謎」。やがて、それぞれが隠していた「秘密」が明らかになってゆく。驚きと感動に満ちた7日間を描く青春グラフィティ。(Amazon

 あとがきで恩田氏が「(寮生活出身者に話を聞いたが)あまりにも美しくない実態に、参考にしないことにした」「当初の計画では『トーマの心臓』をやる予定だった」と率直に述べていて笑った。狙いも着地も間違っていないと思いますし、彼女の著作にしては広げた風呂敷ちゃんと畳んでいて他人にもネタ枠ではなく勧めやすい。

 光浩に対して島田という弁護士が言ったことは弁護士として非常に許されざることで、もちろん許されないことだというのは他でもない光浩が指摘しており、未成年にそれをさせてはダメだ、というのも書かれてたとは思うが、とにかくものすごくダメだ。そんなものを美化してはいけない。

 しかし、なんでも器用にこなす頭のいい一見社交的な男子が、子供の頃のトラウマで女性が怖い無垢男子に、俺はお前が羨ましいって発言するの、ものすごいBL力だよな。おののいたわ。

パトリック・レドモンド『霊応ゲーム』  ★★☆

霊応ゲーム (ハヤカワ文庫NV)

霊応ゲーム (ハヤカワ文庫NV)

 

1954年、イギリスの名門パブリック・スクールで学ぶ14歳の気弱な少年ジョナサンは、同級生ばかりか教師にまでいじめられ、つらい日々を送っていた。しかしある時から、クラスで一目置かれる一匹狼のリチャードと仲良くなる。二人が親密になるにつれ、ジョナサンをいじめる悪童グループの仲間が一人、また一人と不可解な事件や事故に巻き込まれていく…彼らにいったい何が? 少年たちの歪んだ心を巧みに描いた幻の傑作。(Amazon

 JUNEだという前情報のみで読んだけど、ホラーだってことも知っておかなきゃいけなかったですね。リーダビリティはあるし一気読みさせる筆力があるのは確かです、が。

 あまりジャンル分けしすぎると読者を減らしてしまうものの、でもミステリとホラーが違うのは、ミステリは謎が明らかになる構造であるのに対し、ホラーって最終的な下手人が人じゃないでしょ。なので、それこそ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』のようなスパイサスペンスが書く人間の悲哀みたいなものが、ホラーだとちょっと書きにくい部分があるのかなあと。人間に帰せれないじゃん。とか言ってホラー苦手だから全然読まないんだけどな! すまん! 今回、ホラーがNot for meだということがわかった!

 JUNEかJUNEでないかと言われたらわたしは超JUNEだと答えます。前半部はあまりのJUNE力にたじたじだった。しかし結末が結構きついので警戒しながら読んだ方がよいです。

ジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』  ★★★★☆

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕

 

英国情報部“サーカス”の中枢に潜むソ連の二重スパイを探せ。引退生活から呼び戻された元情報部員スマイリーは、困難な任務を託された。二重スパイはかつての仇敵、ソ連情報部のカーラが操っているという。スマイリーは膨大な記録を調べ、関係者の証言を集めて核心に迫る。やがて明かされる裏切者の正体は?スマイリーとカーラの宿命の対決を描き、スパイ小説の頂点を極めた三部作の第一弾。著者の序文を付した新訳版。(Amazon

 翻訳は微妙だけど内容は最高ですね!! 最高! 読むの大変だけど面白いです。

 多分トム・ハーディ目当てで映画「裏切りのサーカス」イギリス版DVDを先に見ていたんですが、この映画もキャスティングが豪華な大変良い映画で、 ただ説明がかなり省かれているので原作未読の人にはあまり優しくない内容で、でも今回小説を読んだらこっちも優しくないから、映画化はいろんな意味でとってもいい線いってたんだなと思いました。せっかく三部作なのに続編作られないのかなあ!

裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [Blu-ray]

裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [Blu-ray]

 

 映画版で大きく設定が異なっていたのがベネディクト・カンバーバッチ演じるギラムですね。どういう意図のもとでこうなったんだろうね。カンバーバッチと、トム・ハーディ演じるリッキー・ターを若手俳優コンビで並べたかったのかなあ。コリン・ファース演じるジム・ヘイドンに対する作中での賛美されっぷりには笑いました。ドリアン・グレイの生まれ変わりだって? それはコリンにやらせるしかねえな。

 本作を含むスマイリー三部作はスパイ小説の金字塔と言われており、情報量が多い文章のため値段あたりのコスパが(一部は翻訳のせいで)とてもよく、TTSSに関してはJUNEとしても完成されている上、UK俳優有名どころ集めましたみたいなキャストで映像化されてるのがすごい。ぐうの音も出ない。皆映画を見てから読むといいよ。映画見ても小説読んでも一回じゃ理解できないから。

 映画版での某二人の退場に心を痛めておりましたが、小説面白かったので、続きを読もうという気になりました。

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谷崎潤一郎『刺青・秘密』  ★★★★☆

刺青・秘密 (新潮文庫)

刺青・秘密 (新潮文庫)

 

肌をさされてもだえる人の姿にいいしれぬ愉悦を感じる刺青師清吉が年来の宿願であった光輝ある美女の背に蜘蛛を彫りおえた時、今度は……。性的倒錯の世界を描き、美しいものに征服される喜び、美即ち強きものである作者独自の美の世界が顕わされた処女作「刺青」。作者唯一の告白書にして懺悔録である自伝小説「異端者の悲しみ」ほかに「少年」「秘密」など、初期の短編全七編を収める。(Amazon

 天下の谷崎氏にこんなこと言うのもなんですが、文章が上手いです。上手いです。うんうん唸りながら読んでしまった。津原泰水氏がブックリストで上げていたので、ずっと読みたかったんだけど、このリスト2012年のものですね。4年積ん読してたわ。

『刺青・秘密』谷崎潤一郎新潮文庫
 捻った選択にしようかと思ったが、ここに収録された数篇の、頑なな完成度をやはり好む。(津原泰水の本棚 | ラヂオデパートと私

 最初に「刺青」で幕を開けるのいいですよね。それから「少年」「幇間」「秘密」とフィクション感の強いものが並び、私小説的な「異端者の悲しみ」が来る。これは発表年月と一致してるらしいですが、それすら狙ったのかなと思わずにいられない良い並び方だ。わたし個人が自然主義の小説よりフィクションフィクションしたものが好きなので、谷崎氏がこれらを引っさげて文壇にやってきてくれてよかったです。

 買って損はない。

坂口安吾『桜の森の満開の下・白痴』  ★★★★☆

桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

 

桜の森の満開の下は怖ろしい。妖しいばかりに美しい残酷な女は掻き消えて花びらとなり、冷たい虚空がはりつめているばかり―。女性とは何者か。肉体と魂。男と女。安吾にとってそれを問い続けることは自分を凝視することに他ならなかった。淫蕩、可憐、遊び、退屈、…。すべてはただ「悲しみ」へと収斂していく。(Amazon

 例のごとく文豪失格 (リュエルコミックス)を読んでいたら作者の千船さんがTwitterで「戦争と一人の女」「私は海をだきしめていたい」を推していらしたので、Kindleで色々ダウンロードしてみたらものすごく文体が好みなことに気づいた。それで青空文庫収録の小説は大体読みました。

 あの時代の文豪の中では平易な文章を書く方ですね。私小説めいたものがほとんどなので、こいつ女のことを何だと思ってやがるんだ……とジェンダー的には超アウトなんだけども、明らかにアウトだと自覚しているっぽいだけ抵抗無く読めるところはあります。川端康成の普通っぽい小説(雪国とか)だと、一見普通っぽいがゆえにそこここに散りばめられた女性への蔑視が沁みます。でもあの人、『眠れる美女』とか書いてるんだから大概変態なんだろうな。まだ読んでないけど。

 安吾の話に戻ると、「夜長姫と耳男」、これがある意味一番感心したかもしれないです。すっごい砕けた文体で書いてあるのね、本当、最近書いたと言われてもおかしくないくらいに。基本が大事ですね。きちんとした文章を書ける実力が根底にあるからこそ、ここまで砕けたものが書ける。分かります。分かっていますとも。できないだけです。

今野浩一郎『人事管理入門』  ★★★★

人事管理入門 (日経文庫)

人事管理入門 (日経文庫)

 

人事管理の仕組みをわかりやすく説明する入門書。歴史、環境条件、国際比較の3つの視点から、日本型人事システムの特徴を明らかにしている。定評のあるロングセラー・テキストを、経営環境、法制度の変化に即して改訂した。(Amazon

「入門」としては非常によくまとめられた一冊だと思います。時間がない中で日本における人事管理の概要を掴むには最適かと。賃金規則や就業規則だけ抜き出しても議論でいない、全てが一体となって人事管理なのだというのがわかる。ただあくまで入門なので、そこからどう勉強していくかの読書ガイドが欲しかったかなー。それさえあれば満点をつけてもいい。ここで終わったらもったいないですよ。

フリオ・コルサタル『悪魔の涎・追い求める男』  ★★★★

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

 

夕暮れの公園で何気なく撮った一枚の写真から、現実と非現実の交錯する不可思議な世界が生まれる「悪魔の涎」。薬物への耽溺とジャズの即興演奏のうちに彼岸を垣間見るサックス奏者を描いた「追い求める男」。斬新な実験性と幻想的な作風で、ラテンアメリカ文学界に独自の位置を占めるコルタサルの代表作10篇を収録。(Amazon

 最近小説も非小説もそこそこ読んでいるんだけれど、小説については版権切れをKindleで読むことが多いのでなかなかメモする気力がわかず。コルサタルの名前は本書の翻訳者である木村さんの『ラテンアメリカ十大小説』で見かけていたのでずっと読もうと思っていて、しかし代表作の『石蹴り』が絶版なので後回しにしていたのだった。夏に日本帰国したとき書店で手に取ったら面白そうだったので買った。

 面白かったです。ネットでの評判がいい「南部高速鉄道」は(不勉強な輩にも)分かりやすく日常と非日常の曖昧さがよかった。子兎を吐き出す「パリにいる若い女性に宛てた手紙」もかなり好きで、でも巻末の解説を見たら子兎が性的象徴であることは明らかであるとあり、別に性的じゃなくても面白かったのに……と思った。笑 それは「占拠された屋敷」も同じで、フロイトの不気味についての分析は納得だが、近親相姦かあ。不気味さへの対処をしないあたりにリアリズム否定なんだな、ラテンアメリカっぽいなーと安直な感想を抱きました、が、フロイトはザ・西欧だったな。ガルシア=マルケスの「十二の遍歴の物語」を久々に読みたくなったよ。

 あと「ジョン・ハウエルへの指示」も好きでした。舞台を舞台にした文章が描くスポットライトを浴びるような高揚感、いいね。短編の名手ということなので『遊戯の終わり』も買ってよみたいです。

川端康成『雪国』  ★★★

雪国 (新潮文庫 (か-1-1))

雪国 (新潮文庫 (か-1-1))

 

親譲りの財産で、きままな生活を送る島村は、雪深い温泉町で芸者駒子と出会う。許婚者の療養費を作るため芸者になったという、駒子の一途な生き方に惹かれながらも、島村はゆきずりの愛以上のつながりを持とうとしない――。冷たいほどにすんだ島村の心の鏡に映される駒子の烈しい情熱を、哀しくも美しく描く。ノーベル賞作家の美質が、完全な開花を見せた不朽の名作。(Amazon

 何を隠そう初読であった川端康成。学生の頃にチャレンジしてると思うんだけど読み通した記憶は無い(追記:と思いきや2007年に短編集を読んでいたらしい)。文豪失格という漫画の中で愉快なキャラクターとして描かれているので、興味を持って手に取りました。日本人でノーベル文学賞取ってるの、川端康成大江健三郎だけだもんね。まあ大江さんも多分読んだこと無いんだけどね。笑

 日本一有名な書き出しの一つ(誰しもが知っているといえば「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」「我輩は猫である。名前はまだない」「恥の多い生涯を送って来ました」あたりか?笑)ですね。一文目より二文目の「夜の底が白くなった」がさすがだなと思う、でもこれ翻訳どうするんだろう、文字通りにやるのかなあ。

 内容については正直解説を読んだあとで「わたし文学専攻しなくてよかったー!」と安堵するくらい表面的なストーリーしか追えなくて、表面的に追う限りでは、伊豆の踊子 (角川文庫)に収められている短編の方が文章的な完成度が高く見えたよ。もうわかんないよ文学のことは。

 でも積み荷を一つ下ろせた感じがします。よかったです。