Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

パトリック・レドモンド『霊応ゲーム』  ★★☆

霊応ゲーム (ハヤカワ文庫NV)

霊応ゲーム (ハヤカワ文庫NV)

 

1954年、イギリスの名門パブリック・スクールで学ぶ14歳の気弱な少年ジョナサンは、同級生ばかりか教師にまでいじめられ、つらい日々を送っていた。しかしある時から、クラスで一目置かれる一匹狼のリチャードと仲良くなる。二人が親密になるにつれ、ジョナサンをいじめる悪童グループの仲間が一人、また一人と不可解な事件や事故に巻き込まれていく…彼らにいったい何が? 少年たちの歪んだ心を巧みに描いた幻の傑作。(Amazon

 JUNEだという前情報のみで読んだけど、ホラーだってことも知っておかなきゃいけなかったですね。リーダビリティはあるし一気読みさせる筆力があるのは確かです、が。

 あまりジャンル分けしすぎると読者を減らしてしまうものの、でもミステリとホラーが違うのは、ミステリは謎が明らかになる構造であるのに対し、ホラーって最終的な下手人が人じゃないでしょ。なので、それこそ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』のようなスパイサスペンスが書く人間の悲哀みたいなものが、ホラーだとちょっと書きにくい部分があるのかなあと。人間に帰せれないじゃん。とか言ってホラー苦手だから全然読まないんだけどな! すまん! 今回、ホラーがNot for meだということがわかった!

 JUNEかJUNEでないかと言われたらわたしは超JUNEだと答えます。前半部はあまりのJUNE力にたじたじだった。しかし結末が結構きついので警戒しながら読んだ方がよいです。

ジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』  ★★★★☆

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕

 

英国情報部“サーカス”の中枢に潜むソ連の二重スパイを探せ。引退生活から呼び戻された元情報部員スマイリーは、困難な任務を託された。二重スパイはかつての仇敵、ソ連情報部のカーラが操っているという。スマイリーは膨大な記録を調べ、関係者の証言を集めて核心に迫る。やがて明かされる裏切者の正体は?スマイリーとカーラの宿命の対決を描き、スパイ小説の頂点を極めた三部作の第一弾。著者の序文を付した新訳版。(Amazon

 翻訳は微妙だけど内容は最高ですね!! 最高! 読むの大変だけど面白いです。

 多分トム・ハーディ目当てで映画「裏切りのサーカス」イギリス版DVDを先に見ていたんですが、この映画もキャスティングが豪華な大変良い映画で、 ただ説明がかなり省かれているので原作未読の人にはあまり優しくない内容で、でも今回小説を読んだらこっちも優しくないから、映画化はいろんな意味でとってもいい線いってたんだなと思いました。せっかく三部作なのに続編作られないのかなあ!

裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [Blu-ray]

裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [Blu-ray]

 

 映画版で大きく設定が異なっていたのがベネディクト・カンバーバッチ演じるギラムですね。どういう意図のもとでこうなったんだろうね。カンバーバッチと、トム・ハーディ演じるリッキー・ターを若手俳優コンビで並べたかったのかなあ。コリン・ファース演じるジム・ヘイドンに対する作中での賛美されっぷりには笑いました。ドリアン・グレイの生まれ変わりだって? それはコリンにやらせるしかねえな。

 本作を含むスマイリー三部作はスパイ小説の金字塔と言われており、情報量が多い文章のため値段あたりのコスパが(一部は翻訳のせいで)とてもよく、TTSSに関してはJUNEとしても完成されている上、UK俳優有名どころ集めましたみたいなキャストで映像化されてるのがすごい。ぐうの音も出ない。皆映画を見てから読むといいよ。映画見ても小説読んでも一回じゃ理解できないから。

 映画版での某二人の退場に心を痛めておりましたが、小説面白かったので、続きを読もうという気になりました。

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谷崎潤一郎『刺青・秘密』  ★★★★☆

刺青・秘密 (新潮文庫)

刺青・秘密 (新潮文庫)

 

肌をさされてもだえる人の姿にいいしれぬ愉悦を感じる刺青師清吉が年来の宿願であった光輝ある美女の背に蜘蛛を彫りおえた時、今度は……。性的倒錯の世界を描き、美しいものに征服される喜び、美即ち強きものである作者独自の美の世界が顕わされた処女作「刺青」。作者唯一の告白書にして懺悔録である自伝小説「異端者の悲しみ」ほかに「少年」「秘密」など、初期の短編全七編を収める。(Amazon

 天下の谷崎氏にこんなこと言うのもなんですが、文章が上手いです。上手いです。うんうん唸りながら読んでしまった。津原泰水氏がブックリストで上げていたので、ずっと読みたかったんだけど、このリスト2012年のものですね。4年積ん読してたわ。

『刺青・秘密』谷崎潤一郎新潮文庫
 捻った選択にしようかと思ったが、ここに収録された数篇の、頑なな完成度をやはり好む。(津原泰水の本棚 | ラヂオデパートと私

 最初に「刺青」で幕を開けるのいいですよね。それから「少年」「幇間」「秘密」とフィクション感の強いものが並び、私小説的な「異端者の悲しみ」が来る。これは発表年月と一致してるらしいですが、それすら狙ったのかなと思わずにいられない良い並び方だ。わたし個人が自然主義の小説よりフィクションフィクションしたものが好きなので、谷崎氏がこれらを引っさげて文壇にやってきてくれてよかったです。

 買って損はない。

坂口安吾『桜の森の満開の下・白痴』  ★★★★☆

桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

 

桜の森の満開の下は怖ろしい。妖しいばかりに美しい残酷な女は掻き消えて花びらとなり、冷たい虚空がはりつめているばかり―。女性とは何者か。肉体と魂。男と女。安吾にとってそれを問い続けることは自分を凝視することに他ならなかった。淫蕩、可憐、遊び、退屈、…。すべてはただ「悲しみ」へと収斂していく。(Amazon

 例のごとく文豪失格 (リュエルコミックス)を読んでいたら作者の千船さんがTwitterで「戦争と一人の女」「私は海をだきしめていたい」を推していらしたので、Kindleで色々ダウンロードしてみたらものすごく文体が好みなことに気づいた。それで青空文庫収録の小説は大体読みました。

 あの時代の文豪の中では平易な文章を書く方ですね。私小説めいたものがほとんどなので、こいつ女のことを何だと思ってやがるんだ……とジェンダー的には超アウトなんだけども、明らかにアウトだと自覚しているっぽいだけ抵抗無く読めるところはあります。川端康成の普通っぽい小説(雪国とか)だと、一見普通っぽいがゆえにそこここに散りばめられた女性への蔑視が沁みます。でもあの人、『眠れる美女』とか書いてるんだから大概変態なんだろうな。まだ読んでないけど。

 安吾の話に戻ると、「夜長姫と耳男」、これがある意味一番感心したかもしれないです。すっごい砕けた文体で書いてあるのね、本当、最近書いたと言われてもおかしくないくらいに。基本が大事ですね。きちんとした文章を書ける実力が根底にあるからこそ、ここまで砕けたものが書ける。分かります。分かっていますとも。できないだけです。

今野浩一郎『人事管理入門』  ★★★★

人事管理入門 (日経文庫)

人事管理入門 (日経文庫)

 

人事管理の仕組みをわかりやすく説明する入門書。歴史、環境条件、国際比較の3つの視点から、日本型人事システムの特徴を明らかにしている。定評のあるロングセラー・テキストを、経営環境、法制度の変化に即して改訂した。(Amazon

「入門」としては非常によくまとめられた一冊だと思います。時間がない中で日本における人事管理の概要を掴むには最適かと。賃金規則や就業規則だけ抜き出しても議論でいない、全てが一体となって人事管理なのだというのがわかる。ただあくまで入門なので、そこからどう勉強していくかの読書ガイドが欲しかったかなー。それさえあれば満点をつけてもいい。ここで終わったらもったいないですよ。

フリオ・コルサタル『悪魔の涎・追い求める男』  ★★★★

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

 

夕暮れの公園で何気なく撮った一枚の写真から、現実と非現実の交錯する不可思議な世界が生まれる「悪魔の涎」。薬物への耽溺とジャズの即興演奏のうちに彼岸を垣間見るサックス奏者を描いた「追い求める男」。斬新な実験性と幻想的な作風で、ラテンアメリカ文学界に独自の位置を占めるコルタサルの代表作10篇を収録。(Amazon

 最近小説も非小説もそこそこ読んでいるんだけれど、小説については版権切れをKindleで読むことが多いのでなかなかメモする気力がわかず。コルサタルの名前は本書の翻訳者である木村さんの『ラテンアメリカ十大小説』で見かけていたのでずっと読もうと思っていて、しかし代表作の『石蹴り』が絶版なので後回しにしていたのだった。夏に日本帰国したとき書店で手に取ったら面白そうだったので買った。

 面白かったです。ネットでの評判がいい「南部高速鉄道」は(不勉強な輩にも)分かりやすく日常と非日常の曖昧さがよかった。子兎を吐き出す「パリにいる若い女性に宛てた手紙」もかなり好きで、でも巻末の解説を見たら子兎が性的象徴であることは明らかであるとあり、別に性的じゃなくても面白かったのに……と思った。笑 それは「占拠された屋敷」も同じで、フロイトの不気味についての分析は納得だが、近親相姦かあ。不気味さへの対処をしないあたりにリアリズム否定なんだな、ラテンアメリカっぽいなーと安直な感想を抱きました、が、フロイトはザ・西欧だったな。ガルシア=マルケスの「十二の遍歴の物語」を久々に読みたくなったよ。

 あと「ジョン・ハウエルへの指示」も好きでした。舞台を舞台にした文章が描くスポットライトを浴びるような高揚感、いいね。短編の名手ということなので『遊戯の終わり』も買ってよみたいです。

川端康成『雪国』  ★★★

雪国 (新潮文庫 (か-1-1))

雪国 (新潮文庫 (か-1-1))

 

親譲りの財産で、きままな生活を送る島村は、雪深い温泉町で芸者駒子と出会う。許婚者の療養費を作るため芸者になったという、駒子の一途な生き方に惹かれながらも、島村はゆきずりの愛以上のつながりを持とうとしない――。冷たいほどにすんだ島村の心の鏡に映される駒子の烈しい情熱を、哀しくも美しく描く。ノーベル賞作家の美質が、完全な開花を見せた不朽の名作。(Amazon

 何を隠そう初読であった川端康成。学生の頃にチャレンジしてると思うんだけど読み通した記憶は無い(追記:と思いきや2007年に短編集を読んでいたらしい)。文豪失格という漫画の中で愉快なキャラクターとして描かれているので、興味を持って手に取りました。日本人でノーベル文学賞取ってるの、川端康成大江健三郎だけだもんね。まあ大江さんも多分読んだこと無いんだけどね。笑

 日本一有名な書き出しの一つ(誰しもが知っているといえば「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」「我輩は猫である。名前はまだない」「恥の多い生涯を送って来ました」あたりか?笑)ですね。一文目より二文目の「夜の底が白くなった」がさすがだなと思う、でもこれ翻訳どうするんだろう、文字通りにやるのかなあ。

 内容については正直解説を読んだあとで「わたし文学専攻しなくてよかったー!」と安堵するくらい表面的なストーリーしか追えなくて、表面的に追う限りでは、伊豆の踊子 (角川文庫)に収められている短編の方が文章的な完成度が高く見えたよ。もうわかんないよ文学のことは。

 でも積み荷を一つ下ろせた感じがします。よかったです。

太宰治『女生徒』  ★★

女生徒

女生徒

 

無頼派」「新戯作派」の破滅型作家を代表する昭和初期の小説家、太宰治の短編。初出は「文學界」[1939(昭和14)年]。5月1日の起床から就寝までの少女の一日を描いた話で、少女の心理の移り行く様を丹念に写し取っている。当時、文芸時評を担当していた川端康成は、「「女生徒」のやうな作品に出会へることは、時評家の偶然の幸福なのである」と賛辞を送った。(Amazon

 Kindleでこの短編だけ読んだ。『文豪失格』という漫画内で取り上げられていて面白そうだったからです。ちょうど日本文学を読み直したい気分のときに出会えてよかったです、2巻も期待している。

文豪失格 (リュエルコミックス)

文豪失格 (リュエルコミックス)

 

 

 女生徒に関しては、漫画内での取り上げられ方の通りの印象でした、太宰は有名どころをちょろっと読んだだけだけどこんなふざけた文体(失礼)も使えるだなんてな。くらくらしました。自分のファンのリアル女子学生の日記を元にして書いたらしいですが、これを編集者に出したのだと思うとすごい、天晴と言いたい。東北のお金持ちの家に生まれ、遊び、自殺未遂や心中を繰り返した男がこれを書いたのかと。すごい。それ以外の感想がないです。

 中身を楽しんだかと言われたら読み進めるのが苦痛だったというほかなく、その意味で星は二つにしたものの、読むべきか読まざるべきかといったら他の作品と彼の生い立ちに目を通した上での必読書であろう。薬キメてたのかな。

 あとわたしは津原泰水という作家が非常に好きなのですが、彼が先日こんなツイートをしていたのを思い出して、太宰、やるなあと思った次第です。「眼鏡は魔法」もすごかったけど、「わたしは、王子さまのいないシンデレラ姫」も相当キてて、彼の文章のユーモア力はあの辺の文豪の中で頭一つ抜けているんじゃないでしょうか。

谷崎潤一郎『春琴抄』  ★★★★☆

春琴抄

春琴抄

 

九つの時に失明し、やがて琴曲の名手となった春琴。美しく、音楽に秀で、しかし高慢で我が侭な春琴に、世話係として丁稚奉公の佐助があてがわれた。どんなに折檻を受けても不気味なほど献身的に尽くす佐助は、やがて春琴と切っても切れない深い仲になっていく。そんなある日、春琴が顔に熱湯を浴びせられるという事件が起こる。火傷を負った女を前にして佐助は―。異常なまでの献身によって表現される、愛の倒錯の物語。マゾヒズムを究極まで美麗に描いた著者の代表作。(Amazon

 十年前、大学生だった頃にオタクの友達に「これはすごい」と言われて文庫版を読もうとして2ページほどでリタイアし、そのままになっていたのを本日Kindleで見つけて読みました。変態でした。わたし谷崎は『痴人の愛』しか読んでないながら(あと『細雪』も途中で放り出した)、自身の性癖をこんなにも完璧に近い形で小説化していることに敬意を覚えます。あっぱれ。さすがマゾヒズムの大家と呼ばれるだけある。短いのでオタクはとりあえず読んでおくべき。

 あえて句読点と改行を省いている文体のため、初見では読みにくいんだけど、iPhone6の小さい画面でだとあまり気にならなかった。文体がなあ、と思っている人は試してみるといいかも、著作権切れで無料だから。ただKindle版は解説がないのが物足りない。

太宰治『ヴィヨンの妻、駆込み訴え』  ★★★★

 久々にKindleで小説を読みました。どちらも良かった。文学をちゃんと勉強しておらず申し訳ないのだが、自殺未遂を繰り返したのちようやく心中が成功した作家なのにか、だからか、明るくユーモアのある文章が魅力的ですね。『人間失格』『斜陽』くらいしか読んでいない気がするのでその二つも読み返しつつ、他も読みたい。Kindleで0円なんだもの。

 

ヴィヨンの妻
 

無頼派」「新戯作派」の破滅型作家を代表する昭和初期の小説家、太宰治の短編小説。初出は「展望」[1947(昭和22)年]。泥酔状態で帰り、借金を作ってくる大谷を夫に持つ「私」が、大谷が泥棒を働いた椿屋で働くようになるという話。戦後の太宰文学を代表する作品のひとつで、太宰とイメージが重なる大谷と、妻の「私」の繊細な関係が見事に描かれている。(Amazon

 夫が大金を盗んで逃げたと聞かされた妻がもうどうしようもなくて笑ってしまうところがよい。笑うしかないときは笑おう。でもレイプは笑い事ではないからな。

 

駈込み訴え

駈込み訴え

 

無頼派」「新戯作派」の破滅型作家を代表する昭和初期の小説家、太宰治の短編。初出は「中央公論」[1940(昭和15)年]。聖書から素材を採った作品で、「あの人は酷い。酷い。厭な奴です。悪い人です。」という誹謗から始まって、ユダの心のゆれ動きが迫力に満ちた告白体で一気に綴られている。ユダの中にあるキリストに対するアンビバレンツな愛憎を、切実に心理的に表現した傑作として名高い。(Amazon

  これはヤンデレコメディBL……とうち震えてしまった。お友達が以前よくこの小説は萌えると力説しており、後で読もう読もうと思っていたんだけどこいつはとんでもなかった。こいつは……BLである(語彙の消失)。

 最高に笑ったのは、59%の「もはや、あの人の罪は、まぬかれぬ。必ず十字架。それにきまった。」でした。天才じゃないかな。