Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

G. パスカル・ザカリー『闘うプログラマー』  ★★★★

1980年代にMS-DOSをもってデスクトップ型のパソコン市場を制したマイクロソフト社は、90年代、高性能コンピューターのための「本物」のオペレーティング・システムを開発するプロジェクトを立ち上げます。本書は、同社の世界戦略を担ったOS「ウィンドウズNT」の開発物語です。ウィンドウズNTは後にウィンドウズXPの基盤となり、信頼性の高いOSとして世界中のユーザーに使われることになります。

このプロジェクトのため、同社に「伝説のプログラマー」が呼び寄せられました。彼の名はデビッド・カトラー。形容する言葉も見つからないほど強烈な個性を持つこの男を主人公に、開発者たちの壮絶な人間ドラマが展開します。100人を越える関係者とのインタビューに基づき、凄絶なソフトウェア開発の実態が赤裸々に描き出されています。本書は、単なる企業内の開発ストーリーという範疇を超えた、ノンフィクションの名作と評価されています。(Amazon

 面白かったです。偉大なプロダクトを生み出す(IT)企業にはワークライフバランスなんて存在しないことがよくわかります。絵に描いた餅です。だいたいどんな本を読んでも書いてあることは同じ、超優秀な人間を集めてプレッシャーをかけ長時間労働をさせる(あるいはそもそも指向している人物を選んでおく)ことです。

 ITど真ん中ではないながらも関連企業に属している身として何となく身近に感じることもありつつ(書くのはまだいいけどテストは死ぬほど面倒だし終わりがなくて本当に嫌だなあとかw)、どんなものも、こうして一行一行コードを書いて出来上がったものをテストしてバグを潰して……という終わりのない行程によってできてるんだなあと、とにかくどっと疲れました。よくプロジェクト要員に死人が出なかったな。

 本筋とは離れたところでも面白い箇所がちょいちょいあって、特に最後の方の、投資用にコインランドリーを買って辞職したテスターの話と、「自分でできることはほとんどない。全員をはげまし、ピザを注文することができるだけだ。ピザをもっと頼もう……」っていうペダーソンの独白に吹き出した。ピザやドーナツ等いちいち小道具がアメリカンで(当然である)、日本だったらここはラーメンだろうかと考えたりした。心から、もっとまともなことを考えたい。アジアでしか暮らした事のない日本人にとってあまりにも文化的にアメリカンすぎて、それがジョブズの評伝みたいに一人にフォーカスされたものではなく、かなり多くの人物について述べられていたので、どうしても吹き出してしまった、ピザ……。

 長時間労働と大きなプレッシャーに参っているマイクロソフトプログラマー一同が、スカッシュ、空手、ジョギング、スキーと、健全にもほどがあるストレス解消に走っているのも面白かったし、終了後に「アマチュアのボート選手になるために辞職」する社員が出てくるのも面白かった。最近読んだ何かの本にも(記録してすぐに忘れる)、著者自身がすごく著名なライターだか教授だかであるのに加え、パートナーの女性がトライアスロンに集中するために仕事(もちろん超優秀)を辞めるってくだりがあって、しかもその後チャンピオンになっていて、もう天晴としか言いようが無い。アメリカ人すげえよ。

 文章的には微妙、となってしまうのがわたしが英米の翻訳小説の水準を翻訳全体に求めすぎていることが原因だとは分かっているんだけれども、科学系大衆書籍であればもうちょっとこなれた翻訳だったりしないっけ? 青木さんとか? もうしばらく読んでないけど……読みたいなあ。

安部徹也『超入門 コトラーの「マーケティング・マネジメント」』  ★★

超入門 コトラーの「マーケティング・マネジメント」

超入門 コトラーの「マーケティング・マネジメント」

 

途中で原書に挫折した人でも大丈夫!マーケティングの百科事典的な本である『マーケティング・マネジメント』を、最後まで読み通せた人、理解できた人は少ないでしょう。本書は、原書のエッセンスにフォーカスして、日本企業の事例を豊富に盛り込みながら、普通の人でも理解できるようにやさしくまとめました。(Amazon

 すっごい短いです。原書未読だけど、原書の目次を参照するつもりで読むには適しているかと。そうそう、目次だよ目次。エッセンスを抽出してもほとんど意味はないんだと思います、膨大な記述を読み込むことでしか分からないことがたくさんある。原書を読む前にさらっと目を通しておくのは悪くないかもしれないですけどね。

 しかし原書、電子書籍になってないんだよなー。

デール・カーネギー『人を動かす』  ★★★★

人を動かす 文庫版

人を動かす 文庫版

 

あらゆる自己啓発書の原点となったデール・カーネギー不朽の名著。人が生きていく上で身につけるべき人間関係の原則を、長年にわたり丹念に集めた実話と、実践で磨き上げた事例を交え説得力豊かに説き起こす。深い人間洞察とヒューマニズムを根底に据え、人に好かれて人の心を突き動かすための行動と自己変革を促す感動の書。1936年の初版刊行以来、改訂が施されてきた現行の公式版である『新装版 人を動かす』から本編30章を収載した。(Amazon

 うっかりして省略版である文庫を購入してしまった(弟が)。せっかくなら全部読みたかったけど、カットされている部分は夫婦円満についてのようなので、まあいいか。リンク貼るためにAmazonで検索したら漫画版まで出てきた。こんな短い読み物をわざわざ漫画に起こす人がいるのが不思議だ。

 言わずと知れた名著らしいです。わたしは知りませんでした。人事コンサルタント63人が薦める、「人事担当者として読んでおくべき書籍」とその理由とやらを見ていたらビジョナリー・カンパニーが一位で、大変納得したので他のも読んでみようかなと思って。何もかもが「ごもっとも」と頷きたくなる内容です、ただし実践が難しい。星を減らしたのは読み物として面白いかと問われたらそうでもなかったから。笑 有用ではあるので目を通すことはお勧めしますが。

 目次を引用しておきます。

目次
改訂にあたって
◇PART1 人を動かす三原則
1 盗人にも五分の理を認める
2 重要感を持たせる
3 人の立場に身を置く
◇PART2 人に好かれる六原則
1 誠実な関心を寄せる
2 笑顔を忘れない
3 名前を覚える
4 聞き手にまわる
5 関心のありかを見抜く
6 心からほめる
◇PART3 人を説得する十二原則
1 議論を避ける
2 誤りを指摘しない
3 誤りを認める
4 穏やかに話す
5 〝イエス〟と答えられる問題を選ぶ
6 しゃべらせる
7 思いつかせる
8 人の身になる
9 同情を寄せる
10 美しい心情に呼びかける
11 演出を考える
12 対抗意識を刺激する
◇PART4 人を変える九原則
1 まずほめる
2 遠まわしに注意を与える
3 自分の過ちを話す
4 命令をしない
5 顔をつぶさない
6 わずかなことでもほめる
7 期待をかける
8 激励する
9 喜んで協力させる
訳者あとがき 

ジェフリー・ムーア『キャズム』  ★★★★☆

キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論

キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論

 

本書が解説する「キャズム理論」は、いまや米国のみならず世界中の常識となったマーケティング理論です。今回の改訂により、成功例/失敗例を問わず、すべての事例が刷新されたほか、ハイテク市場の発展段階をまとめた「トルネード理論」の概要と、ネットビジネスの急成長モデルとして「フォー・ギアズ・モデル」の解説が新たに加わりました。自社製品の生き残りをかけている企業の経営者、営業/マーケティング担当者、必読です!
●事例:キャズムを越えたサービスや製品無線LAN3Dプリンター、SNSクラウドソリューション、ハイブリッド自動車スマートフォンなど。(Amazon

 わたしが読んだのは残念ながら改定前のものですが、事例が刷新されても理論自体は変わらないみたいだね。トルネード理論も読みたかったです、電書は自動アップデートしてくれればいいのになあ。

 読みさしの『イノベーションのジレンマ』が固め(ペンパルマフィア比)の文章だったので、エンタメ色を求めて手を付けたはずが、進むにつれて現在の本業と具体的に結びついて来て、結果的に全然軽くなかった。笑 「ハイテク市場」というとついAppleIBMGoogleを思い浮かべて自分とはあまり関係ないでしょ〜と思っていたんだ、しかしこれはどちらかというとシステムベンダーの必読書……ホールプロダクト……セールスとマーケティング……これは……(厳密にはベンダーではないけど)わたしにとっての現実の話……何というあるある……。

キャズム」という言葉の定義自体はこんな感じ。

まず購買層を次のように分類する。

イノベーター (innovators)
新しい技術が好きで、実用性よりも新技術が好きな人。オタク。

アーリー・アドプター (early adopters)
新しい技術によって、競合相手などを出し抜きたいと思っている人々。

アーリー・マジョリティー (early majority)
実用主義で役立つなら新しい技術でも取り入れたいと思っている人など。

レート・マジョリティー (late majority)
新しい技術は苦手だがみんなが使っているなら自分も使わなければと思う人たち。

ラガード (laggards)
新しい技術を嫌い、最後まで取り入れない人々。

 

それぞれの間に溝があり乗り越えなければならないが、特にアーリー・アドプターとアーリー・マジョリティーの間の大きな溝(キャズム)を乗り越えられるかどうかが、その製品が普及するか、一部の新製品マニアに支持されるにとどまるかどうかの一番の鍵である。キャズム (書籍) - Wikipedia

 重たいのはこの先のセールスとマーケティングの部分でして……面白いんだけど、ビジネス書を読み慣れていないせいか結構疲れました。現状と引き比べていたせいかもしれん。耳に痛い話ばかりだった。

 一番ですよね〜と思ったのは「ターゲット・カスタマーと深いパイプを持っていて、顧客企業の内側からドアを開けられる人間」=「ターゲットにしている業界の役員クラスをこちらに迎え入れ」ってところ。やはりそれが最適解なのね。あ、あと「VARにとっての利益の大部分は、製品販売に寄るマージンからではなく、コンサルテーションによる付加価値から生み出され(中略)そのため、抱えているスタッフがフル稼働の常態になれば、VARはそれ以上の販売努力を一時的に中止してしまう」うっうっ分かってる。

 マーケティングのために、実利主義者が社内でアドプトできるようにあえて比較対象を作る、ってあたりを読みながらピーター・ティール『ゼロ・トゥ・ワン』を思い出した。競争するなって主張しか今となっては覚えてないのだが。BtoBビジネスの場合は複数を比較検討した上で選びました、って社内プロセスを経て受注に至ることが多い(それなしに選ぶにはよっぽどの理由がないとな)ので……ホールプロダクトね!! 耳が痛いなー!

 ざっくり読んだだけなので、リアルに役立てられるように精読したいですね。というのは願望のまま終わりそうだけど。だめなんだけどそれじゃ。とりあえず先にイノベーションのジレンマを片付けます。今は多読したい。

 

ピーター・ティール『ゼロ・トゥ・ワン』  ★★★

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

 

たとえば、日本が「失われた20年」と言われている間に、世界のイノベーションを引っ張っているのはアメリカ、特に西海岸のシリコンバレーだ。アップルやフェイスブックといった名前がすぐに思い浮かぶけれど、数多のスタートアップが起業しては消えていく世界でもある。
そんな中、次々と成功する企業を立ち上げる起業家集団がある。
オンライン決済サービス・ペイパルの初期メンバーとして繋がりが深く、現在もシリコンバレーで絶大な影響力を持つことから「ペイパル・マフィア」とも呼ばれる彼らは、ご存知ユーチューブ(YouTube)をはじめ、電気自動車テスラ・モーターズや民間宇宙開発のスペースXからイェルプ(Yelp!)、ヤマー(Yammer)といったネットサービスまで、そうそうたる企業を立ち上げてきた。
本書はそのペイパル・マフィアの雄、ピーター・ティールが、母校スタンフォード大学で行った待望の起業講義録である。(Amazon

 講義録だったのか(今更)

 キャズムの前に読んで、面白かったような気はするんだけど、何か強烈に頭に残っていることがあるかというと無い。競争じゃなくて独占を作れってことくらいか。キャズムは我が事として読んだけど、こっちはスタートアップの話が主だから身を入れて読まなかったからかな。〈べき乗則〉が分からなくてググって更に分からなくなったのは覚えている。

 採用が大事だという、あらゆる「ハイテク企業」創始者が唱えていることは耳にタコだが、結局それが達成できないのが一般企業なのであった。エンジニアに向かってセールスの大事さを語りかけるくだりはよかったです。普通っぽくて。笑

 数学の話が理解できなかったのが一番の敗因ではないかと。

リード・ホフマン他『ALLIANCE 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』  ★★★☆

ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用

ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用

 

変化が激しい時代に、従来の終身雇用では時代のスピードに対応できない。優秀な社員も成長できる仕事を求める。このような時代、シリコンバレーで実践されているのが、「アライアンス」という雇用形態だ。人は企業とではなく仕事と契約し、かつ企業とも信頼で結びつく。変化に対応する組織の新たな雇用を提唱する。(Amazon

 ペイパルマフィア繋がりで読んでみました。Linkedinの創業者であるリード・ホフマンによる企業と人との結びつき方についての指南書。著書一冊目であるスタートアップの方は読んでいないんだけど、本書の書きぶりからは、彼自身の思想・関心がLinkedinに結びついているんだなって感じがします。

 すごく短い本で、ホフマンの評伝でもなければ論文調でもなく、実用的な指南書の色合いが濃くて読み応えはイマイチですが、プロパー社員の少ない企業に属する人事的目線からは有用ではないかしら(わたし自身は人事ではない)。

 終身雇用を前提にせず採用活動をするなら「次の会社で何をしたい?」と採用面接時に質問するのはとても面白いし、尋ねるべきだと思う。「次」を見据えている人は、経歴書を立派にするために真面目に仕事をするはずなんですよ。笑 ゴールじゃなくて通過点、くらいに考えてもらった方が推進力のある組織になりそう。終の住処のつもりじゃ、人は怠けるよ(ブーメラン)。コミットメント期間、特に若年層に取り込みたいねー。

 うちの会社も「一度離れて戻って来るのは歓迎」と経営陣が言いながらも、「卒業生」と会社との交流は個人間に限られているので、これも定期的に関係性をアップデートできる仕組みを考えるべきなんだね。中途採用はギャンブルに近いから。

 まあ一番は優秀な人しか採用しないってことなんですよ!! どの人も口を揃えて繰り返すんだよ、優秀な人しか採るな、辞職願いを出されたら慰留したい人だけ残せって。でも、不景気だからって採用を控えると後々組織のピラミッドのバランスが悪くなるって言うよね。だから毎年一定数は採っておけと。でも新卒採用をコンスタントにするということは、特に知名度の無い中小企業にとっては、大して優秀だと思えない学生にも内定を出すってことでしょう。日本みたいな流動性のない社会では、あるいはシリコンバレーのスタートアップ企業みたいなきらびやかさのない企業では、なかなか難しいことですよね。

アシュリー・バンス『イーロン・マスク 未来を創る男』  ★★★★

イーロン・マスク 未来を創る男

イーロン・マスク 未来を創る男

 

驚異的な頭脳と集中力、激しすぎる情熱とパワーで宇宙ロケットからスタイリッシュな電気自動車まで「不可能」を次々と実現させてきた男――。

シリコンバレーがハリウッド化し、単純なアプリや広告を垂れ流す仕組みを作った経営者ばかりが持てはやされる中、リアルの世界で重厚長大な本物のイノベーションを巻き起こしてきた男――。

「人類の火星移住を実現させる」という壮大な夢を抱き、そのためにはどんなリスクにも果敢に挑み、周囲の摩擦や軋轢などモノともしない男――。

いま、世界がもっとも注目する経営者イーロン・マスク公認の伝記がついに登場!

イジメにあった少年時代、祖国・南アフリカから逃避、駆け出しの経営者時代からペイパル創業を経て、ついにロケットの世界へ・・・・・・彼の半生がすべて明らかになります。(Amazon

 面白かったです!

 お恥ずかしながら彼の名前全然知らなかったんですけど……すごい……教養と一般常識の欠如しまくった人間で申し訳なくなるんですけど、面白かったです。例によって、この手のCEOの評伝読むと、最高に優秀な人材を集めた上で24時間働けますかの世界なので、下々の者は野たれ死ぬのでしょうか、って気分になるけどエンタメとしては面白いです。SFの世界を実現している。

 ボリューム的には物足りなく、せめて1.5倍は欲しかったが、1971年生まれの44歳なら致し方無し。名前で検索したらこんな記事がアップされたばかり。数十年後に亡くなったら分厚いのが出るでしょう。笑 宇宙ビジネスの「欧州」ってフランスメインなんだね〜。

hbol.jp

 火星移住をリアルに目指すスペースX、電気自動車テスラ太陽光発電と、ペイパル以降に作った会社は一貫性がありますね。その前はドットコム企業って感じだけど。いや十分すごいのだけど。アイアンマンのモデルとなったのも知らなかったです、すごいね。心無しか名前も似ている。

 ドットコム時代で気になったの、電書30%前後のLinuxMicrosoft論争を「こんなことで揉めるなんて、部外者にとっては馬鹿馬鹿しく見えるが」って、読者のリテラシーを低く見積もりすぎだろう! 「宗教戦争のようなもの」と仰せの通りだよ!笑

 本文中にゲイツジョブズとの比較があり、ベゾスとの確執も描かれていたけれど、後者二人の激しさとかなり共通する部分が(文章からは)伺えて、既に代替わりしたAppleはまだしも、AmazonとスペースX・テスラについては後継者育成がとんでもなく大変そう。いくら若いと言ってもそろそろ始めている……のだよな?

 今の時代当たり前なんだけどさ、今さっき読み終えた本に書かれている人のTwitterが読めるのって不思議な感じだ。笑 いや至極当たり前なんだけど、マスクの公式アカウントがテスラ電気自動車を宣伝しているのを見て、現実……と思ってしまった。小説を読む気持ちで読んでいるからか。

 次はせっかくだからペイパル繋がりのリード・ホフマン読みますw 全部弟の本だけどあの子全然ITではない割にはIT関連ばっかり買ってる。わたしは残念ながらエンジニアにはなれなかった(頭が悪かった)が、分野としては好きなので有難い。

ジム・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』  ★★★★

ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則

ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則

 

ごく普通の会社が、世界有数の経営者に率いられた超一流企業に勝るめざましい業績をあげるまでに変身した。全米1435社の中から選ばれた傑出した業績を長期間持続させることに成功したジレットフィリップ・モリス、キンバリー・クラーク、ウェルズ・ファーゴ等の飛躍を遂げた企業11社をそれぞれの業種で競合関係にある企業と詳細に比較・分析した結果、飛躍したこれらの企業には共通した以下のような特徴があった。

●飛躍を導いた経営者は、派手さやカリスマ性とは縁遠い地味なしかも謙虚な人物だった。その一方で勝利への核心を持ち続ける不屈の意思を備えており、、カエサルやパットン将軍というよりは、リンカーンソクラテスに似た思索する経営者であった。

●飛躍を導いた経営者は、最初に優秀な人材を選び、その後に経営目標を定める。目標にあわせた人材を選ぶのではない。

●飛躍を導いた経営者は、自社が世界一になれる部分はどこか、経済的原動力は何か、そして情熱を持って取り組めるものは何かを深く考え、必要とあればそれまでの中核事業を切り捨てる判断さえ下す。

●劇的な改革や痛みを伴う大リストラに取り組む経営者は、ほぼ例外なく継続した飛躍を達成できない。飛躍を導いた経営者は、結果的に劇的な転換にみえる改革を、社内に規律を重視した文化を築きながら、じっくりと時間をかけて実行する。(Amazon

 面白かった、んだけど、一作目の方が初めて読んだのもあってエンタメ的なインパクトがあったかなー。こういう書籍をエンタメとして消化するんじゃないという苦言は受けますが、やっぱり読んでて楽しい方が読書体験として上じゃない?

 毎度のことながら調査にかける時間と手間が半端ない。前作は六年、二冊目は五年ですか? 調査対象会社を選び出す手法の時点でわたしは目眩がしたし、その後の調査やインタビュー項目の多さには気が遠くなってほとんど読んでません。本文だけ読みました。

 肝心の内容は、言われてみれば、ものすごく目新しいことを言っているわけではない、と思うんですよ。第五水準の指導者概念については、カリスマ指導者が目立つ現代のIT企業と引き比べて意外に感じられるんだけど、ごくごくまっとうで納得できる論点ばかり。しかし著者が述べているように、この全てを満たすのはまず無理であって(と言ってしまう時点で駄目なのだが)、うちの会社なんてボロボロだよお……後継者育成まったくできてないけどどうするのか。

 まずはRight peopleをバスに乗せるんだ、っての一つとっても難しいですよね。いるのかなうちの会社に。結局人の地頭や性格といった後天的に身につけるのが難しい部分が大事になってくるじゃないですか。でも凡人にもできることはあるはずなんだ。Right peopleを手放さずに済む制度設計とか……何か……。

 43%目あたりに出てくる奥様のエピソードに笑いました。可笑しかったんじゃなくて、すごい人の周りにはすごい人が集まるんだなって意味で。優勝おめでとうございました。

 次何読もうかなー。同じくベゾスお勧めの『イノベーションのジレンマ』を読み終えておくか。

ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』  ★★★★★

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

 

3M、IBM、ディズニーなど時代を超え際立った存在であり続ける企業18社を選び出し、設立以来現在に至る歴史全体を徹底的に調査、ライバル企業と比較検討し、永続の源泉を「基本理念」にあると解き明かす。(Amazon

 誰もが読んでいる本に対しておもしれー! とか言うの教養の無さ丸出しで恥ずかしいんですけど、すごく面白かったです……。ハウツー本ほど軽薄でなく、学術書ほど重くもなく、エンタメとしても読めます。本文中には難解なことが書かれていないので本当誰でも読める。

 経済系書籍をほとんど読まないわたしが本書を知ったのはAmazonのベソス伝記に愛読書として上げられていたから(感想)。ベソス本ではAmazonと同じく小売のウォルマートの話もたくさん書いてありましたが、ビジョナリー・カンパニーの例に使われていたくらいだったんですね、ウォルマート。

 わたしの教養レベルの低さのせいで、企業リストを読むだけでも面白かったし(3Mがマイニングから始まってたとか知らなかったよ)、HPやIBMの話は、最近読み終えたジョブズ本で(ジョブズによって)滅茶苦茶言われていたのを思い出して面白かったですね。この本1994年にアメリカで出版だもんな。20年前だよ。

 しかしAmazonAppleが顧客第一主義をこれでもかと掲げていること、Google(の従業員個人)が基本理念に沿ってプロジェクトの取捨選択をしていること等、今をときめく色んな会社に参考にされているんだ〜と思いました。そこらへんの新興企業がどんな後継者育成をしてくるのかも楽しみですね! ベゾスもジョブズもワンマンだったからあまり成功しているようには見えないので……。

 あとは自分の今の会社の状態と引き比べて今後どうすればいいんだろうと考えたりしていました。今所属している部署、前上司だったときは絵に描いたようなワンマンで、彼がいなくなったら分かりやすく断絶が発生したのだけれど、それは後任者のせいだけではなく(後任者のせいも確実にあるんですよ笑)、彼が己がいなくなった後の組織作りをしてこなかったことに原因があったんだなあと。現在の上司は組織作りに主眼を置いていて、それは評価できるのだけど、にしても当事者意識が薄すぎ――これ以上はやめとこ。笑 あと本社で後継者育成が全然できてないとかね、痛いところたくさん突かれていたわ。さすがに管理職レベルは意識してるんだろうが、意識だけじゃどうにもならないのよねー。とりあえず管理職対象にこの本使って研修したらどうか。笑

 日本人としては、ソニーとケンウッドがアメリカ企業以外で唯一登場したことにちょっとした嬉しさを感じてしまいますね。ソニーの音楽事業についてはやはりジョブズ本でけちょんけちょんに言われていたし、VAIO切り離したり何やらで日本の電機系は暗雲しか見えないですけど……。

外市場を視野に入れなければ、井深氏や私が思い描いているような会社にすることはできない、と強く感じるようになった。われわれとしては、日本の製品は品質は悪いという外国での評判をどうしても変えたかった……(盛田昭夫他『MADE IN JAPAN』)

 現在の「安かろう悪かろう」代名詞とも言える中国在住なので、色々と思うところもあり。日本製品が中国において安心・安全と見なされ、特に子供に使うオムツや肌に直接塗布するスプレー等を「爆買い」されているのは、ソニーをはじめとする日本企業が品質改善に取り組んで来た結果なんですね。まさに今、中国も頑張っているよね。国内用に高品質炊飯器を作ったり、美的が東芝の白物家電部門を買収したりさ。

 次の『飛躍の法則』の方が有名みたいなので、引き続き読んでみます。

エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ『How Google Works』  ★★★★

How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス)  ―私たちの働き方とマネジメント

How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス) ―私たちの働き方とマネジメント

 

グーグルは、この方法で成功した!
グーグル会長がビジネスの真髄を初公開!
序文はグーグルCEO兼共同創業者のラリー・ペイジが執筆。

■グーグル現会長で前CEOのエリック・シュミットと、前プロダクト担当シニア・バイスプレジデントのジョナサン・ローゼンバーグは、グーグルに入社する以前から経験豊富なIT業界のトップ・マネジャーだった。だが、2人が入社したグーグルは、「他とは違ったやり方をする」ことで有名だ。これは、ビジョナリーであり、人とは反対の行動をとりがちな共同創業者2人、ラリー・ペイジセルゲイ・ブリンの方針に沿ったものだった。

■入社してすぐにエリックとジョナサンは悟った。グーグルで成功するには、ビジネスとマネジメントの方法をすべて学び直さなければならない、と。本書では、著者2人がグーグルの成長に貢献しながら学んだ「教訓」を豊富な事例とともに語る。

■テクノロジーの進歩は消費者と企業のパワーバランスを激変させた。この環境下では、多面的な能力を持つ新種の従業員――スマート・クリエイティブ――を惹きつけ、魅力的で優れたプロダクトを送り出す企業だけが生き残れる。戦略、企業文化、人材、意思決定、イノベーション、コミュニケーション、破壊的な変化への対応といったマネジメントの重要トピックを網羅。

■グーグルで語られる新しい経営の「格言」(「コンセンサスには意見対立が必要」「悪党を退治し、ディーバを守れ」「10倍のスケールで考えよ」……など)やグーグル社内の秘話を、驚異的なスピードで発展した社史とともに初めて明かす。

■すべてが加速化している時代にあって、ビジネスで成功する最良の方法は、スマート・クリエイティブを惹きつけ、彼らが大きな目標を達成できるような環境を与えることだ。本書は、ただその方法をお教えするものである。(Amazon

 面白かったですよー。すごい面白かった。わたしがまったくスマート・クリエイティブでも何でもなく、今後どうやって生きていけばいいのかな……と遠い目になってしまうところを覗けば。笑

 エンジニアリング系企業の経営層が書く本読むと常にそう思いますよね。エンジニアではなく優れた経営感覚およびキャリアも持っていない人間には生きる道があるのかしらって。2016年現在、何の専門性も無い三十路女性でもごく普通の生活をできておりますが、あと30年以上働かないといけないわけだからね。どうしよう。

 本書内でも言及されていた、同じくGoogleのラズロ・ボック『ワーク・ルールズ!』、わたしも事前に読んでいたので重複している箇所が多々見られました。特に採用について、いかに重きを置いているかというのがよく伝わりました。まあ難しいよね。Googleほどの企業であればスマート・クリエイティブを採用できる可能性はぐんと上がるけど、ぱっとしない企業にそういう人が来てくれることってそうそうないよ。……と言い訳をしているあいだに差がついていくものなんでしょうけど。ジョブスの伝記でもまったく同じ話を読んだけど。

 AppleでもGoogleでも社内の人材交流を活発にするためにオフィスの設計が考えられていたね。これだけインターネットが発達して遠隔勤務やネット会議ができるようになった今、その流れを強化牽引してきた企業であっても、直接会って言葉を交わすことによる化学反応を重要視している、人の脳味噌のクリエイティビティを信じている……つまりそれだけの何かを生み出す社員のみ採用しろということ(堂々巡り)。

 79%(電子書籍で読んだのでページがない)のところで各業界のハブ都市が挙げられていた中に、日本が一つもなかったことを真剣に考えないとまずい。ここはあらゆる意味で他国企業や人を引き付ける場所ではない。

 色んなところで引用されるトヨタ自動車ってやはりすごい会社なのねえ。